主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまから“駄目だ”と言われたが、息吹はそれをさらっと聞き流した。


「雪男と一緒の部屋だと?絶対駄目だぞ」


「私の勝手でしょ。雪ちゃんと夜通し話をするの。ずーっと離れてたんだから話したいことが沢山あるんだから」


…完全に心が離れて行ってしまっている息吹を止める術が見つからない。

また百鬼に冷やかされるのも我慢ならず、人間の小娘に振り回されている自分の姿を見られるのは絶対にいやだった。


「駄目だと言ったら駄目だ。雪男、お前…俺の食い物を凍らせるつもりか」


「食われるよりはましかなって。凍らせても俺なら解凍できるし。逆に息吹を守ることにもなるんだぜ」


「……勝手にしろ」


――苛立ちが募る。

雪男も息吹も言うことを聞かず、むしろ自分の態度のせいで息吹の心を硬化させてしまっていることには気付いてはいるが…


主さまは、今まで恋をしたことがなかった。


“お前を抱きたい”と言えばどんな女でも自分を拒絶したことがなく、


本気で息吹を求めてしまっている主さまは息吹に対してどう接すればいいのか、わからなくなっていたのだ。


「不器用じゃのう」


「…うるさいぞぬらりひょん」


「人間の小娘に入れ込むなどやめておけ。お前さんは力の強い女の妖と早う夫婦になって子を作るべきじゃ。あの小娘とは夫婦にはなれんぞ。妾にでもするつもりか?」


「ふ、夫婦だと?あれは人間だ。それに入れ込んでなど…」


「どっぷりじゃないか。あの小娘は早う晴明に返しておけ」


――主さまの百鬼夜行は、力の強い者順で並んでいる。


故に主さまに口出しする妖が近くに固まっていて、舌打ちをしながら前を行く八咫烏を追う。


…息吹は相変わらず振り返らない。


時々雪男の肩に触れたり顔を覗き込んで笑い合ったり…


とにかく自分が息吹としたいと思うことを全て目の前でやってのけている。


「…俺に素直になれと?」


素直とは、一体なんだ?


俺は息吹をどうしたいんだ?


先に死んでしまう息吹を看取る覚悟はあるのか?


これ以上絡め取られる前に…手放すべきなのか?


「…俺は俺がわからない」

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