主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「馬鹿馬鹿馬鹿っ、主さまの馬鹿!」


――今までこんなに怒りを感じたことはない。

あの顔なのだから女に好かれるだろうとは思っていたが、絡新婦とはどうやら男女の関係にあるらしい。


そんな手で自分には触れてほしくはない――


「息吹、ちょっと待てって」


「雪ちゃんどの部屋にする?」


部屋はいくつもあり、大小様々な部屋の中から少し大きめの部屋を選ぶと、そこに雪男を連れ込んだ。


「な、なんか…すっげえ照れるんだけど…」


「主さまと一緒の部屋なんて絶対いやなんだもん。どうせ…夜になったら絡新婦さんとやらしいことするんだろうし」


「やらしいことって…息吹、お前気付いてたのか」


憤然と机の前に座って突っ伏してしまった息吹は明らかに気落ちしていて、そこで雪男にも疑問が沸いて、息吹の正面に座るとつむじを突いた。


「お前って…その…主さまにまだ抱かれてないのか?」


「えっ!?ゆ、雪ちゃんなに言ってるの!?そんなわけないでしょ、私はまだ…食い時じゃないんだって。痩せてるからって。…でももう…主さまには食べられたくないの。絶対私はあげないんだから」


――高千穂に発つまではいつか食われてもいいと思っていた。

だけど、絡新婦と主さまの親密な関係を知ってしまったからには、そんな気持ちは消えうせた。


「絡新婦さん…絵の女の人じゃなかった…」


「絵?絵ってなんだよ」


息吹がまだ主さまに抱かれていないと知って有頂天になった雪男は白い手を伸ばして机の上の息吹の手を握ると、息吹は唇を尖らせて雪男を見つめた。


「主さまの大切な人なんだって。とっても綺麗な人なの」


「今まで長い間主さまの傍に居るけど聞いたことないぜ?そ、それよか息吹…本当に俺と一緒の部屋でいいのか?」


――息吹がきょとんとした顔をした。

その顔を見て、自分がまだ恋愛対象外だと知った雪男は行動に出ようと決めて、息吹の隣に移動するとするりと髪紐を解いてこぼれる艶やかな長い髪に触れた。


「何が?雪ちゃんと一緒の部屋で私は嬉しいけど…」


雪男は無邪気に笑った。
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