主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「主さま、息吹がまた攫われたって聞いたぞ!場所はわかってるんだ、俺たちが行って来る!」
「返り討ちに遭うだけだぞ」
「それでも!ここに居るよりはいい!」
息吹を我が子のように可愛がっていた妖たちが団結し、返事も待たずに勝手に飛び出して行ってしまった。
「あいつら勝手なことを…」
「まあまあ。そなたの身体からも毒が抜けたようだし一安心だ。そのなまくら刀…役に立つのか?」
鬼八のあの腕を斬り落とす威力を本来持っているはずなのに、爪を止めるのが精いっぱいだった天叢雲――
枕元に置いてあった特殊な布で封印してある天叢雲を手に取ると、主さまは小さな声で呟いた。
「少し独りになりたい」
「…何か危険なことをするのではあるまいな」
「いや…代々危機に遭った時俺たちがやっていたことをするだけだ」
「…そうか、わかった。終わったら声をかけてくれ」
何も言わずに睨みを利かせていた雪男の肩を抱きながら晴明が部屋を出ていくと天叢雲の布を外し、刀身を鞘から少しだけ抜いた。
『我に文句がありそうだな』
「あるとも。お前がかつて鬼八の首と胴体、手足を切り落としたんだぞ。かつての威力はどうした」
『はて、我も長く生きてきたし、妖力が弱まってきたのやもしれぬ。ああ、力を吸えばかつての我に戻れるやもしれぬなあ』
わざととぼけた口調でくつくつと笑いながら言った天叢雲。
力を求められている。
与えなければ、鬼八に傷ひとつつけることも適わない。
「…俺の力を与えてやる」
『ほう。代々そうして我に狂わされた者たちを知らぬわけではないだろう?いいのか?お前も狂うやもしれぬぞ』
今は…息吹を助けたい。
息吹を助けて、抱きしめて、ちゃんと言うんだ。
愛している、と。
――主さまは鞘から刀を全て抜いた。
鈍く発光する天叢雲は主さまの決意を感じ取り、かたかたと震えた。
『良いのだな』
「…行くぞ」
精神を統一し、天叢雲に自らの強大な妖力を送り込んだ。
…引っ張られる。
引力に逆らいながらも、天叢雲の交換条件に乗らないわけにはいかなかった。
「返り討ちに遭うだけだぞ」
「それでも!ここに居るよりはいい!」
息吹を我が子のように可愛がっていた妖たちが団結し、返事も待たずに勝手に飛び出して行ってしまった。
「あいつら勝手なことを…」
「まあまあ。そなたの身体からも毒が抜けたようだし一安心だ。そのなまくら刀…役に立つのか?」
鬼八のあの腕を斬り落とす威力を本来持っているはずなのに、爪を止めるのが精いっぱいだった天叢雲――
枕元に置いてあった特殊な布で封印してある天叢雲を手に取ると、主さまは小さな声で呟いた。
「少し独りになりたい」
「…何か危険なことをするのではあるまいな」
「いや…代々危機に遭った時俺たちがやっていたことをするだけだ」
「…そうか、わかった。終わったら声をかけてくれ」
何も言わずに睨みを利かせていた雪男の肩を抱きながら晴明が部屋を出ていくと天叢雲の布を外し、刀身を鞘から少しだけ抜いた。
『我に文句がありそうだな』
「あるとも。お前がかつて鬼八の首と胴体、手足を切り落としたんだぞ。かつての威力はどうした」
『はて、我も長く生きてきたし、妖力が弱まってきたのやもしれぬ。ああ、力を吸えばかつての我に戻れるやもしれぬなあ』
わざととぼけた口調でくつくつと笑いながら言った天叢雲。
力を求められている。
与えなければ、鬼八に傷ひとつつけることも適わない。
「…俺の力を与えてやる」
『ほう。代々そうして我に狂わされた者たちを知らぬわけではないだろう?いいのか?お前も狂うやもしれぬぞ』
今は…息吹を助けたい。
息吹を助けて、抱きしめて、ちゃんと言うんだ。
愛している、と。
――主さまは鞘から刀を全て抜いた。
鈍く発光する天叢雲は主さまの決意を感じ取り、かたかたと震えた。
『良いのだな』
「…行くぞ」
精神を統一し、天叢雲に自らの強大な妖力を送り込んだ。
…引っ張られる。
引力に逆らいながらも、天叢雲の交換条件に乗らないわけにはいかなかった。