主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
華月は鬼八の隣に腰を下ろすとなお鵜目姫から視線を外さなかった。


『お前とこうして会うのはこれが最期になるかもしれないな』


『…どこへ行くつもりだ?』


『乳ヶ岩屋へ。鵜目姫…待ち遠しいね』


『はい…。鬼八様とようやく夫婦になれるのですね…』


感慨深く瞳を潤ませた鵜目姫はこの時、燃えるような黒瞳をした男と目が合った。


『華月様…?』


『…決行はいつだ?』


鵜目姫からようやく瞳を逸らした華月が微笑み合っている鬼八に問うと、鬼八は鵜目姫の細い肩を抱いた。


『数日のうちに鵜目姫を里から連れ出そうと思う。華月…幼馴染のお前にだけは鵜目姫を紹介しておきたかった』


――華月はまたじっと鵜目姫を見つめていた。


この時鬼八も鵜目姫も、華月が鵜目姫に一目惚れしていたことに気付いていなかったのだ。


「華月さんって主さまにそっくり…。性格も外見も…」


「華月はいい男だったけれど無口で不器用で、友と呼べる者は俺しか居なかったんだ。なのにあいつは…俺を裏切った…!」


隣の鬼八が手で顔を覆って身体を震わせると、息吹は背中を擦ってやりながらもなお親しみを感じる華月をじっと見つめていた。


鬼八はそれが気に入らず、談笑する3人を指した。


「息吹姫、見て」


――がさり。


前方の茂みが音を立てたので鵜目姫が首を竦めると鬼八が華月が所持していた刀を手に立ち上がった。


『鬼八様…っ』


『鵜目姫は華月と居て』


心配そうな表情で鬼八が消えて行った方を見つめている鵜目姫の手に、華月が触れた。


『か、華月様…?』


『…美しい。その髪も瞳も、上質の黒曜石のように輝いている』


『鬼八様に誤解されたくありません、華月様…手をお離し下さい』


『…いやだ、と言ったら?』


華月が鵜目姫に迫る。

息吹はどこかで見たことのあるような光景に眩暈を感じて、よろめいた。


「息吹姫」


「私…私…知ってる…。鵜目姫さんのことが、わかる…!華月さんのことが怖くて…鬼八さんに会いたくって…」


息吹と鵜目姫の感情が同調した。


意識が、合わさった。
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