主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
目の前の鬼八が大きく咆哮した。


――主さまはそんな鬼八を、華月の中から見ていた。


華月から止めどなく溢れて来る嫉妬と怒りの感情――


目の前の鬼八から伝わってくる裏切られたことへの憤怒の感情――


鬼八の両の額から小さな角が生え、牙が口から飛び出たが、鵜目姫は一向に構わず鬼八の腕にしがみついた。


そして、こちらを睨みつけてきた。


「…いぶ、き…」


まるで息吹に睨まれ、恨まれたような気がした。

そしてそんな瞳で見つめられた華月もまた深く恨みを募らせながらも鵜目姫に腕を伸ばした。


『鵜目姫、こっちへ。あなたを死なせたくない』


『いやです!鬼八様が死んだら私も死にます!私を鬼八様から離せば私も死にます!』


強い強い決意。


それもまた息吹に言われたような気がして、


まるで目の前の鬼八に息吹を奪われるような気がして、主さまは頭を押さえながら苦悶した。


「息吹…っ、駄目だ、どこにも行くな…!」


叫べど伝わらない。


――華月は伸ばした腕を引っ込めて、叫んだ。


『ずっとお前を恨んでいた!何もかも手に入れるお前を、憎んでいた!』


『華月…っ、そんな…俺はそんなこと思ってな…』


『鵜目姫を幸せにできるか?人目を忍びながら人の生活を捨てて生きていけると思うのか?鬼族と人の双方から拒絶されながら生きて行けるか?』


…その華月の言葉は主さまの心をも傷つけ、何度も首を振って否定しようとするが…


鵜目姫の血縁と言えど、息吹は人だ。


自分の傍で幸せに生きてゆけると本気で思っているのか?


そう問うてみると、目先の幸せにだけかまけているような気がして、自分自身をも信じられなくなってくる。



『華月…!俺たちに構うな。俺と鵜目姫は夫婦になる。里も捨てる。何もかも捨てる!』


『私も人の生活を捨てます!お願い華月様、私たちに構わないで!私は鬼八様と必ず幸せになります!』


想い合う2人の強い気持ちを、羨ましいと思った。


――主さまの感情が華月と呼応する。


華月と、重なり合う――

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