主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
また矢が放たれて、鵜目姫の頬をかすった。


『鵜目姫!』


『鵜目姫を傷つけるな!』


鬼八と華月双方から声が上がり、三毛入野命はその迫力に気圧されながらも1歩前進して配下の者たちを鼓舞させた。


『鬼八だけを攻撃せよ!鵜目姫は無傷で保護するんだ!』


――追い込まれた。


このままでは鵜目姫をも傷つけてしまうかもしれない…


『鵜目姫…あなたは残っていて』


『!いやです!鬼八様、私はあなたと運命を共にすると決めました。両親も兄弟も捨てました!あなたと生きるために…!』


『鵜目姫…!』


一目見た時から美しい姫だと懸想して、少しずつ声をかけて…急速に惹かれていった姫――


一緒に逃げてくれる、と言ってくれた時にどれほど嬉しかったか…


――鬼八の視界は一瞬涙で歪み、


次の瞬間鵜目姫を抱き上げると空を蹴って大空へと駆け上がった。


『逃げたぞ!』


『華月!お前とは絶縁だ!次に俺の前に姿を見せれば…お前を殺す!』


『俺はお前を殺したくていつもうずうずしてたからな、望むところだ」


最後に肩越しに少しだけ振り返ると、静かに返してきた華月は…


笑っていた。


『鬼八様…!』


『ごめん鵜目姫…。華月があんな奴だとは…』


鬼族で最も力が強く大きく、

いずれは鬼族を率いて、虐げられてきた鬼族としての地位を復興させるために尽力すると決めた自分を支持してくれた男だった華月――


今もあれは幻だったと信じたい鬼八は悔しさに唇を噛み締めて、血のにじむ鵜目姫の頬を指で拭った。


『鵜目姫…大丈夫?』


『ええ、平気です。それより鬼八様…やっと私を連れて行ってくれるんですね。嬉しい…』


華月とどんなやりとりをしていたのかを知りたかったが、時間はたっぷりある。


…奴らが追って来るだろうが、退ける自信もある。


この姫を守るために、一生を賭そう。


『あなたが住みやすいように色々揃えてたんだ。あなたは何を持ってきたの?』


『これを』


鵜目姫が懐から取り出したのは、

1枚の手鏡だった。

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