主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
追っ手は来なかった。
ただはじめて空を駆けるという経験をした鵜目姫は眼下に広がる黒い森たちに目を向けることができず、必死にしがみついていた。
『大丈夫だよ鵜目姫。もうすぐ着くから』
『鬼八様は空を飛んでいて怖くないのですか?私はきっと腰が抜けて立てません…』
しゃらん、と珊瑚の髪飾りを揺らして少しだけ顔を上げた鵜目姫の頬にはくっきりと血の痕が滲んでいた。
それについてはどうしても三毛入野命と華月を許すことはできなかったが、今は一刻も早く乳ヶ岩屋に連れて行って鵜目姫を休ませなければ。
『鬼八様…華月様のことを私はあなたに言っていませんでした』
『…あなたは悪くない。華月があなたに懸想してしまったんだろう?それ位は想像できる。…あいつは俺によく似ているから』
乳飲み子の頃から共に在った華月はどこへ行っても一緒で、これからもそのはずだったのに…
少しずつ密かに崩壊していった絆は、鵜目姫を巡って瓦解した。
女で壊れた友情。
所詮、その程度のものだったのだろう――
『さあ、着いたよ』
『ここが…鬼八様がお暮しになっている場所ですか?』
『そう。急だったからまだ揃えてないものも沢山あるけど…ここであなたと俺はずっと暮らして行くんだ。気に入ってもらえるといいけど』
――ここには鬼族の者も近付かない。
成長するにつれて力も日増しに強大なものになっていった鬼八に恐れをなして、ここには誰も近付かないようになっていた。
それは相手の勝手。
寂しくなどない。
『鬼火を怖がらないなんて…あなたはやっぱり変わった姫だ』
暗い洞窟の中に鬼八が作りだした青白い炎のような鬼火が無数に揺れていた。
鬼火は鬼が現れる前触れ。
鵜目姫と出会った時、あろうことかこの姫はこの鬼火に手を伸ばして触れようとして驚いたことを思い返して笑みが零れた。
『奥に小さいけど家がある。…あなたと俺の家だよ。鵜目姫…子を沢山作って、幸せな家族になろう』
『ええ…。鬼八様、私たちはようやく夫婦になれるのですね』
求めていたものを、ようやくこの手に――
ただはじめて空を駆けるという経験をした鵜目姫は眼下に広がる黒い森たちに目を向けることができず、必死にしがみついていた。
『大丈夫だよ鵜目姫。もうすぐ着くから』
『鬼八様は空を飛んでいて怖くないのですか?私はきっと腰が抜けて立てません…』
しゃらん、と珊瑚の髪飾りを揺らして少しだけ顔を上げた鵜目姫の頬にはくっきりと血の痕が滲んでいた。
それについてはどうしても三毛入野命と華月を許すことはできなかったが、今は一刻も早く乳ヶ岩屋に連れて行って鵜目姫を休ませなければ。
『鬼八様…華月様のことを私はあなたに言っていませんでした』
『…あなたは悪くない。華月があなたに懸想してしまったんだろう?それ位は想像できる。…あいつは俺によく似ているから』
乳飲み子の頃から共に在った華月はどこへ行っても一緒で、これからもそのはずだったのに…
少しずつ密かに崩壊していった絆は、鵜目姫を巡って瓦解した。
女で壊れた友情。
所詮、その程度のものだったのだろう――
『さあ、着いたよ』
『ここが…鬼八様がお暮しになっている場所ですか?』
『そう。急だったからまだ揃えてないものも沢山あるけど…ここであなたと俺はずっと暮らして行くんだ。気に入ってもらえるといいけど』
――ここには鬼族の者も近付かない。
成長するにつれて力も日増しに強大なものになっていった鬼八に恐れをなして、ここには誰も近付かないようになっていた。
それは相手の勝手。
寂しくなどない。
『鬼火を怖がらないなんて…あなたはやっぱり変わった姫だ』
暗い洞窟の中に鬼八が作りだした青白い炎のような鬼火が無数に揺れていた。
鬼火は鬼が現れる前触れ。
鵜目姫と出会った時、あろうことかこの姫はこの鬼火に手を伸ばして触れようとして驚いたことを思い返して笑みが零れた。
『奥に小さいけど家がある。…あなたと俺の家だよ。鵜目姫…子を沢山作って、幸せな家族になろう』
『ええ…。鬼八様、私たちはようやく夫婦になれるのですね』
求めていたものを、ようやくこの手に――