主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
奥へ行くと小さな家があり、さらに奥に続く細い道があったので、鬼八の袖を引っ張った。


『鬼八様、奥には何が?』


『温泉が湧いてる。温泉入ったことないだろう?すごく気持ちいいんだよ、後で一緒に入ろう』


かあっと頬を赤くした鵜目姫が可愛らしく、手を引っ張りながら家へ入ると嬉しそうに部屋の中を見回していた。


『狭いけど…ここがいやなら違うところに…』


『いいえ、広い家じゃなくていいの。狭い家の方があなたの近くに居れるから…』


草履を脱いで中へ上がると小さな化粧台があり、その前に座ると唯一持ってきた手鏡を置いた。

…鬼八が自分のためにどこからか調達してきてくれたのだろう。

それを想像するとくすぐったくて、鬼八の腕に抱き着くと少し身じろぎをして恥ずかしがった。


『う、鵜目姫…』


『私たちは夫婦になるのでしょう?どうしてそんなに恥ずかしがるのですか?』


釜戸に火をかけたので徐々に部屋の中が温まり、

鵜目姫と鬼八は手を繋いで見つめ合うと、抱き合った。


『あなたを大切にしたいんだ。あなたの身体をすぐに求めるような男にはなりたくない。ここでのんびり過ごそう』


『はい。嬉しい…鬼八様はいつも私のことを1番に考えて下さるから…。私もあなたを大切にしたい』


しばらくの間鵜目姫のやわらかであたたかな身体を抱きしめた後、襖を開けて木箱を取り出すと、その中から軟膏を取り出した。


『鬼八様、それは?』


『鬼族に伝わる軟膏だよ。通常の薬草より何倍も治癒を速めてくれる。…ごめんね鵜目姫…。あなたの綺麗な肌に傷が…』


『ふふふ、大丈夫です。ねえ鬼八様、もう寝ましょう?私なんだか疲れて…』


『でも鵜目姫…実は…布団が1組しかないんだ。あなたと一緒に寝るわけには…』


鵜目姫は戸惑う鬼八に瞳を丸くして、さらに笑い声をあげた。


『私たちは夫婦になるのですよ?布団はこれからも1組で構いません。ふふ、悪戯してもいいですよ』


『し、しないよ悪戯なんて…』


恥ずかしがる鬼八に愛情が込み上げる。


この時こそが、1番幸せを感じた時だった。

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