主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
妖が風邪など引くはずがない。
…だがその事実を告げてしまえばあの掛け布団の中には入れてもらえないだろうし、息吹の肌も見ることができない。
懊悩した結果、その事実を言わずにおこうと決めた主さまは着ている濃紺の着物から腕を抜いて上半身むき出しになると、息吹の口がぽかんと開いた。
「ど、どうして脱ぐの!?」
「張り付いていて気持ち悪い。早く入れろ、冷たい」
息吹はしばらく躊躇していたが、身から出た錆。
もそもそと主さまの隣に移動した息吹は身を乗り出して主さまの顔にぐっと近づくと、小指を出した。
「指切りして。絶対ぜーったい見ないって約束して!」
「…不可抗力だった場合を除き、約束する」
ずるい言い訳をしつつも小指に小指を絡めると、さらに息吹は瞳を閉じるようにと要求してきた。
それも仕方なく瞳を閉じて待っていると、素肌の腕に息吹の腕がぴっとりとくっつき、ぬくもりが伝わってきた。
「……もっと早くあたたかくなる方法があるぞ」
「え?今なんて…くしゅんっ」
髪も濡れ、身体も冷え切ってしまった息吹が全く被害を被らなかった赤子の指を握っていると、いきなり身体がふわりと浮いたと思ったら主さまの膝に乗せられていた。
身体に巻き付けていた掛け布団は床に落ち、一糸纏わぬ息吹の身体を主さまの視線が撫で、慌てて身体を丸め、見えないように苦心しながら非難した。
「み、見ないって約束したでしょ!?」
「見てない。見えたんだ」
こじつけてうそぶきながら息吹の背中に腕を回してもっと密着させた。
一瞬びくっと身体が動いたが、それ以上抵抗はしなかった。
…息吹は俯いているので、自分がじっくり身体を見ていることに気付いていない。
それをいいことにずっと見ているとだんだんもやもやしてきだした主さまは、瞳を閉じて身体を丸めている息吹を抱き起すと、真向かいに自身に抱き着かせた。
「!ぬ、主さまっ!?」
「この方があたたまる。…………そうだろう?」
「……そうだけど…身体が…くっついてるし…」
「…貧相な身体には興味がない。妙な心配はするな」
「ひどいっ。でも…あったかい…」
――貧相ではない。
息吹の身体はやわらかく、主さまの煩悩は散々膨らみつつも、一方的に気持ちを押し付けないように自身を叱咤しながら息吹を抱きしめた。
…だがその事実を告げてしまえばあの掛け布団の中には入れてもらえないだろうし、息吹の肌も見ることができない。
懊悩した結果、その事実を言わずにおこうと決めた主さまは着ている濃紺の着物から腕を抜いて上半身むき出しになると、息吹の口がぽかんと開いた。
「ど、どうして脱ぐの!?」
「張り付いていて気持ち悪い。早く入れろ、冷たい」
息吹はしばらく躊躇していたが、身から出た錆。
もそもそと主さまの隣に移動した息吹は身を乗り出して主さまの顔にぐっと近づくと、小指を出した。
「指切りして。絶対ぜーったい見ないって約束して!」
「…不可抗力だった場合を除き、約束する」
ずるい言い訳をしつつも小指に小指を絡めると、さらに息吹は瞳を閉じるようにと要求してきた。
それも仕方なく瞳を閉じて待っていると、素肌の腕に息吹の腕がぴっとりとくっつき、ぬくもりが伝わってきた。
「……もっと早くあたたかくなる方法があるぞ」
「え?今なんて…くしゅんっ」
髪も濡れ、身体も冷え切ってしまった息吹が全く被害を被らなかった赤子の指を握っていると、いきなり身体がふわりと浮いたと思ったら主さまの膝に乗せられていた。
身体に巻き付けていた掛け布団は床に落ち、一糸纏わぬ息吹の身体を主さまの視線が撫で、慌てて身体を丸め、見えないように苦心しながら非難した。
「み、見ないって約束したでしょ!?」
「見てない。見えたんだ」
こじつけてうそぶきながら息吹の背中に腕を回してもっと密着させた。
一瞬びくっと身体が動いたが、それ以上抵抗はしなかった。
…息吹は俯いているので、自分がじっくり身体を見ていることに気付いていない。
それをいいことにずっと見ているとだんだんもやもやしてきだした主さまは、瞳を閉じて身体を丸めている息吹を抱き起すと、真向かいに自身に抱き着かせた。
「!ぬ、主さまっ!?」
「この方があたたまる。…………そうだろう?」
「……そうだけど…身体が…くっついてるし…」
「…貧相な身体には興味がない。妙な心配はするな」
「ひどいっ。でも…あったかい…」
――貧相ではない。
息吹の身体はやわらかく、主さまの煩悩は散々膨らみつつも、一方的に気持ちを押し付けないように自身を叱咤しながら息吹を抱きしめた。