主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
肌の滑らかな手触り…

外も中も薄暗く、囲炉裏の炎だけが室内を僅かながらに照らし、雰囲気は最高潮。

あたたかさが息吹の身体に伝わったのか、先程よりももっとぴったりとくっついた胸の感触に息吹のことに関しては理性がやや欠如している主さまは喉元まで悲鳴が競り上がっていた。


「…あたたかいか?」


「うん、あったかい…。妖でもあったかいんだね。昔主さまに腕枕してもらって寝てたのが懐かしいな」


「いずれ毎日のようにしてやる。…お前…こんなにくっついていて何も感じないのか?」


「え?何も感じないって…どういうこと?」


見上げてきた息吹の唇がかすめるように唇にぶつかり、一瞬時が止まったかのように動きが止まった2人は頬を赤く染め、額と額を軽くぶつけた。


「……照れる」


「主さまは照れ屋だもんね。ねえ、貧相って言われないようにするにはどうしたらいいの?毎日沢山食べてるのに全然太れなくて困ってるの」


「もう十分………いや、もっと食え。幽玄町より平安町の晴明の屋敷の方が高価なものが食えるし滋養がつく。1年も暮らしていればすぐに太るだろうが、太り過ぎに気を付けろ。俺はほっそりした女の方が好きだ」


「我が儘。それに主さまの女の人の好みなんか聞いてませんから!」


…妙な雲行きになってしまうと息吹の頬が膨れて離れようとしたので、焦った主さまは胸に埋め込むようにして息吹を抱きしめながら低い声で耳元で囁いた。



「…お前はほっそりしているし、顔も性格も俺好みだ。もっと自信を持って胸を張れ」


「主さま…ほんと?ねえ、もっと言って。ふわふわして気持ちいいから」


「お前しか考えられない。いずれ違う意味でお前を食う。それまでに熟成させろ。熟れた時に、食う」



胸がきゅんと鳴って苦しくなってきた息吹が俯くと、主さまはゆっくりと身体を横たえさせ、息吹が身体の上に乗るような形になった。


主さまの心臓の音が心地よく、黙って聴いているうちに主さまの息遣いも聴こえるような静けさに包まれ、揺れる炎を見つめた。


主さまも息吹も、言葉もなくただじっとくっつき、2人の時間を分かち合った。

…これ以上進もうと思えば今すぐにだって進めることができるだろう。


だがそれではつまらない。

耐えて耐えて、そしてようやく手に入るものの価値を、噛み締めたい。
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