主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹は全裸同然だし自分は半裸だ。

とても平静で居られる状況ではなかったが、少しだけ…少しだけ、と悪い自分が囁きかけてきて、息吹の首筋に顔を寄せると唇を押し付けた。


「や、主さま…っ」


「これしきなんだ?お前は裸だし、これ以上俺に耐えろと?牙を立てるわけでもなし、じっとしていろ」


「そんなこと言ったって…主さま…っ」


小さな声を上げる息吹は最高に可愛らしく、頭が痺れるような感覚に襲われた主さまは唇が勝手に下降しようとするのをなんとか堪えながら息吹の頭を胸に抱いた。


「…俺は1年耐える自信が無い。無いが、お前の望みを叶えてやりたい。だから怖がるな」


「こ、怖がってないもん。主さまの方が父様を怖がってるんでしょ」


「あんなの怖くない。多少いざこざは起きるだろうが、あいつはお前が俺の嫁になること自体は反対じゃなかった。…お前は耐えられるのか?」


「私は女の子だし…“主さまを襲いたい”って思ったことはまだないし…だから私は大丈夫だけど…主さまごめんね、私まだ子供だから…大人になるまで待ってて」


「こういう時だけ子供ぶるのか。まあいい、雨が止んだら帰るぞ」


息吹は手を伸ばして赤子を引き寄せると真ん中に寝かせて川の字になり、2人で赤子の頬を突いたり紅葉のように小さな手を握ったりして時を過ごした。

そうしているうちに雷鳴が遠ざかり、雨の音も小さくなった頃には息吹は眠ってしまい、それをいいことに息吹の肌を見たいと思ってしまった主さまが掛け布団を剥ごうと手をかけると、赤子が泣き出した。


「お、おい、泣くな。息吹は起きる」


「ぎゃあああん!」


「んん……あ…大変、襁褓が濡れてる!替えてあげなきゃ!」


がばっと起き上がった拍子に掛け布団がばさっと落ち、主さまと息吹は一瞬目が点になった。


もちろん主さまは息吹の肌を余すことなく焼き付けるように見てしまい、息吹は自身の身体を見下ろした後盛大な悲鳴を上げた。


「きゃああーーーっ!見ないで見ないで見ないで!主さま見ないで!」


「み、み、みみ見てな…見たが見てない!」


「見たくせに!じっくり見てた!もおやだ、主さまの馬鹿馬鹿馬鹿!」


こってり叱られた主さまは腕で顔を隠しながら起き上がり、背中を向けて先程の光景を反芻。


反芻しすぎて上せ、鼻血が出そうになっていた。
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