主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
その後息吹がむっつりしてしまい、謝れど謝れど許してもらえなかった主さまは頬をかきながら手を差し伸べた。


「雨が止んだ。そろそろ戻ろう」


「…うん。さ、触んないでね!」


「…は?じゃあどうやって屋敷まで帰るつもりだ?あちこち触られたくなければじっとしてろ」


「待って!その前に…」


囲炉裏の前で息吹が風呂敷を広げると、雨に濡れずに無事だったおにぎりと漬物が出てきた。

何度も言うようだが妖は人の食べ物など食さないのだが、息吹が自分のために用意してくれたということが嬉しくて、立ち上がっていた主さまはまた座り直すとおにぎりを1つ手にした。


「本当は外で食べようと思ってたんだけど雨が降っちゃったし…ここで食べよ。主さまの好きなお漬物もあるよ」


「ああ。……その…さっきはすまなかった。許してくれ」


また謝ると、じとっとした瞳で見られたが、息吹が首を振り、ぽっと頬を桜色に染めた。


「でも…いつかは全部見られちゃうんだし…もっとすごいこともされちゃうんだし…だからいいの。私こそ騒いじゃってごめんなさい」


――ついつい“もっとすごいこと”を想像してしまった主さまの手からぽろりとおにぎりが落ち、咳払いをしながら膝から拾うと息吹の肩を抱き寄せた。


「すごいことをするのは俺だけか?お前は俺にすごいことをしたくないのか?」


「えっ!?だ、だ、だ、だって…わかんないもん。私は主さまと違って遊んでないんだからっ。一緒にしないでっ」


ぷいっと顔を背けられ、またもや大慌ての主さまは息吹を膝に乗せるとひたすら謝りまくった。


「俺の過去はいい。過去は過去だろう?お前を嫁にすると決めたんだから、それ以降の心配はするな。…もう遊んだりしない」


「…ほんと?約束してね」


口の端についた米粒をぱくっと食べると、その後は息吹の機嫌も戻り、陽が差し込んできた外に目を遣った主さまは息吹の膝に赤子を乗せて息吹を抱っこすると外へと出た。


「帰ろう。晴明に勘付かれたらどやされる」


「逢引くらいは許してもらわないと主さまに触れないよ。私から父様に言っておくから心配しないで」


晴明が息吹にとにかく甘いことは事実なので、それは息吹に一任すると空を蹴り、幽玄町へと戻った。


…何も知らずに。
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