主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹と共に屋敷へ戻ると、早速縁側で晴明がだらりと寝そべっているのを見つけた主さまは小さく舌打ちをして息吹を腕から下ろした。


「お2人でどこへ行っていたのかな?報告は受けていないが」


「…報告が要るのか?そろそろ子離れしろ」


「父娘は子離れ親離れなどせぬ。さあさあ、どこで何をしていたか話してもらおうか」


晴明に詰め寄られてたじたじになった主さまがむっつりしていると、何か違和感を感じた息吹が晴明の隣に座って顔を覗き込んだ。


「父様…どうしたの?どこか痛いの?いつもと違うよ?」


「そうかい?まあ久々に朝廷へ行っていじめられてきたから、疲れてはいるが」


「!いじめられたの!?…帝に…?」


――息吹にとっての帝は恐怖の対象でしかなく、手籠めにされそうになったことや、晴明を人質に取られたことなど嫌な思い出が頭をよぎり、唇を噛み締めた。


「気に病むことはない、少々手助けを求められただけだし、もう2度とそなたに手出しはさせぬよ」


「手助けって…なに?父様…もう帝には関わってほしくありません。だから…」


「帝というよりは気になる人物が居るから、しばらく監視しておきたいのだよ」


袖を握って離さない息吹は顔に“心配”と書いてあり、主さまは煙管を噛むと横目で2人を見ながらも口を挟まずにあの帝の悪行を思い浮かべていた。


…息吹が晴明のために帝の正室になろうとしたこと…

自分が息吹を守るために姿を消して傍にいたこと…


まだ昨日のことのように思える。


「あんまりしつこく聞くと父様も困るよね。あと銀さんがあんまり顔を出しに来ないの。どこに居るの?」


晴明は脇に置いていた烏帽子を被ると居住まいを正して腰を上げ、息吹はそんな晴明を見上げた。

いつも柔和な笑みを浮かべている表情は…少し険しくなっているような気がした。


「さあ、あ奴は風に吹かれて流されるがままに生きているから、私にはわからぬ。ところで先に帰っているからゆっくりしておいで」


「!一緒に帰ります!じゃあね主さま!また明日来るから!」


「…ああ」


――晴明と主さまが一瞬目配せをしたが、息吹はそれに気付かず慌てて準備をすると赤子を抱っこした。


銀のこと…

空海のこと…

…帝のこと…


聴きたいことと話したいことが沢山あった。
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