主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
元々この赤子は銀が拾って来たので、銀の腕に抱かれた赤子は嬉しそうに手足をばたばた動かすと銀の頬に手を伸ばした。
「よしよし、また会いに来るからな」
「銀さん…追われてるの?私…銀さんを追ってる人を知ってるかもしれないの。でも…良い人で…」
銀は片眉を上げるとしゅんとなった息吹の隣に立ち、尻尾で息吹のお尻をくすぐった。
「ひゃっ」
「自分自身の直観を信じろ。俺はまあ…身から出た錆だ。あちらで少々悪戯が過ぎたかもしれないからな」
「ちなみに私もお前を追っている者を知っている。僧だろう?」
「え!?父様…知ってるの!?」
朝廷へ行き、帝と何を話したかをまだ息吹に言っていない晴明は烏帽子を取って縁側に座ると小さく息をついた。
「だがそれが本来の目的なのかどうかわからぬ。私が探ってみるから、お前はどこかへ隠れていた方がいい」
「悪いがそうさせてもらう。封じられては面白くないし、この子の親に一喝してやりたいからな」
――息吹は気が気ではなかった。
空海という僧…悪い人物には見えなかったし、まさか探し物が銀だとは…
「あのお坊様…また幽玄町に来ると思うの。…私に会いに来るって言ってたの」
ぴくりと晴明の肩が揺れた。
晴明の逆鱗に触れかけているのを察知した銀は、今度は尻尾で息吹の手をくすぐると門に向かって歩き出し、手を振った。
「また来る。息吹、その子を頼んだぞ」
「はい、私に任せて」
ぎゅうっと赤子を抱きしめて銀を見送ると、晴明が息吹に手招きして隣に座らせた。
「空海という僧だね?」
「はい、そうです。まだ若いお坊様で…錫杖を持ってて、氷菓子を買ってくれたの」
「こらこら、知らない男から物を貰ってはいけないよ。そうか…そなたに会ったのか」
晴明の身体からじわりと殺気が滲み出たのに全く気付いていない息吹は赤子を晴明の膝に乗せて手を握った。
「もう会わない方がいい?僧って…妖もやっつけちゃうんでしょ…?」
「そうだね…会わぬ方がいいが、あちらが勝手にやって来るのならば仕方あるまい。だが十六夜の情報は教えぬように。いいね?」
「はい」
この時はまさか、あんなことになるとは思っていなかった。
自身の浅はかさに気付く時が、じわじわとやってくる――
「よしよし、また会いに来るからな」
「銀さん…追われてるの?私…銀さんを追ってる人を知ってるかもしれないの。でも…良い人で…」
銀は片眉を上げるとしゅんとなった息吹の隣に立ち、尻尾で息吹のお尻をくすぐった。
「ひゃっ」
「自分自身の直観を信じろ。俺はまあ…身から出た錆だ。あちらで少々悪戯が過ぎたかもしれないからな」
「ちなみに私もお前を追っている者を知っている。僧だろう?」
「え!?父様…知ってるの!?」
朝廷へ行き、帝と何を話したかをまだ息吹に言っていない晴明は烏帽子を取って縁側に座ると小さく息をついた。
「だがそれが本来の目的なのかどうかわからぬ。私が探ってみるから、お前はどこかへ隠れていた方がいい」
「悪いがそうさせてもらう。封じられては面白くないし、この子の親に一喝してやりたいからな」
――息吹は気が気ではなかった。
空海という僧…悪い人物には見えなかったし、まさか探し物が銀だとは…
「あのお坊様…また幽玄町に来ると思うの。…私に会いに来るって言ってたの」
ぴくりと晴明の肩が揺れた。
晴明の逆鱗に触れかけているのを察知した銀は、今度は尻尾で息吹の手をくすぐると門に向かって歩き出し、手を振った。
「また来る。息吹、その子を頼んだぞ」
「はい、私に任せて」
ぎゅうっと赤子を抱きしめて銀を見送ると、晴明が息吹に手招きして隣に座らせた。
「空海という僧だね?」
「はい、そうです。まだ若いお坊様で…錫杖を持ってて、氷菓子を買ってくれたの」
「こらこら、知らない男から物を貰ってはいけないよ。そうか…そなたに会ったのか」
晴明の身体からじわりと殺気が滲み出たのに全く気付いていない息吹は赤子を晴明の膝に乗せて手を握った。
「もう会わない方がいい?僧って…妖もやっつけちゃうんでしょ…?」
「そうだね…会わぬ方がいいが、あちらが勝手にやって来るのならば仕方あるまい。だが十六夜の情報は教えぬように。いいね?」
「はい」
この時はまさか、あんなことになるとは思っていなかった。
自身の浅はかさに気付く時が、じわじわとやってくる――