主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
早急にばたばたと動いて離れの畳を乾拭きしたり障子の埃を取ったりして今すぐにでも住める状態に整えて表に出ると、そこには脚を引きずってこちらに向かおうとしていた相模を見つけて唇を尖らせた。


「駄目だよじっとしてて!」


「でも…しばらく厄介になるんだし、俺が悪いのは脚だけだし…なんかできることがあったら…」


「うん、その時は手伝ってもらうね。ほら歩ける?手を繋いであげるからゆっくり歩いてね」


「う、うん」


晴明が手当てをしてくれたのか、右足首の患部には塗り薬の上に薬草を張り、さらに包帯も巻かれていたので、きっと痛みもすぐ引くだろう。


「さっき晴明様から苦い薬飲まされてさ。熱さましだって言ってた」


「父様が煎じたお薬は薬師のよりも効くんだから。萌さんの体調も少しは良くなるかもって言ってたしよかったね」


「こんなこと言ったら怒られるかもしれないけど…全部息吹のおかげだよ。俺が牛車に轢かれなかったら俺はともかくお母ちゃんはもう…」


――見るからに病弱そうな萌。

働けない母を養うためにまだ十にも満たない歳の相模でひとり家計を支えるには無理があっただろう。


「どこで働いてたの?」


「魚屋。時々売れ残った魚を貰えたんだけど…今日行けなかったから…クビかな」


「そっか…」


だがその会話の中でぴんときた息吹は母屋に着くと庭を見渡せる部屋で寛いでいた萌に笑いかけつつ晴明の部屋へ駆け込み、薬を煎じていた晴明の背中に抱き着いた。


「ちーち様っ」


「なんだい、何か私におねだりしたいことがあるようだねえ」


早速看破されて晴明の両耳を引っ張ると、首に抱き着きながらおねだりを再開した。


「小間使いが欲しいって言ってたよね?」


「ああ、そんな愚痴をこぼしたこともあったかもしれないが。どうしたんだい?」


晴明の表情はもう答えを知っている顔だったが敢えて息吹に言わせるように仕向けると、今度は前に回り込んで膝に上り込んで袖を引っ張った。


「相模がね、働いてたお魚屋さんでもう働けないかもしれないって言ってたの。だから…その…あのね?」


「ああ、なるほど。うちで雇っても構わないよ。その代わり脚が治ったらすぐにでも働いてもらうが、それでもいいならば」


「!父様!大好き!!」


相模の働き先、決定。
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