主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまの怒鳴り声は息吹の部屋にまで届いていたので、恐る恐る部屋を抜け出ると廊下を歩き、ひょっこり顔を出した。
「主さま…?」
「!息吹…寝ていたんじゃないのか」
「寝てたけど…主さま怒ってるの?父様…怒られてるの?」
「ああそうだとも。十六夜に叱られて泣いてしまいたいよ」
「どうして怒られたの?主さま…どうして怒ったの?」
「…」
主さまが黙ったまま俯いていると、息吹は晴明から赤子を受け取って無言のまま部屋を出て行った。
その態度が気になった主さまはすぐさま腰を上げて後を追い、息吹の手を掴んで振り向かせた。
「息吹」
「理由はわかんないけど聴いちゃいけないことっていうのはわかったから。この子にお乳あげないといけないから部屋に戻ってるね。主さまは早く寝た方がいいよ」
「…いい。傍に居る」
「そう?じゃあ行こ」
――息吹は少しやつれた。
元々線は細かったが、最近眠れぬ夜が多く、その理由のひとつとして…自分と夫婦になったことで起きる弊害が含まれていることを晴明から知り、同じ悩みを抱えているのは自分だけではないのだと知って安堵もしたが…
襖を閉めた主さまは赤子を受け取って床に寝かせると、息吹の両肩を掴んで真剣な顔で問うた。
「息吹…俺と夫婦になりたいか?」
「…え?今さら…な、なに?主さまは…違うの?」
「違わない。だが悩みもあるだろう?お前と俺は同じ悩みを抱えている。…そうだな?」
「…いつか…死に別れる悩み…?」
…やっぱり。
みるみる泣き顔に表情が崩れていく息吹を力いっぱい抱きしめて、何度も言い聞かせた。
「…別れは元より承知だ。だがお前を手放せない。ずっと俺の傍に居てくれ。お前が必要なんだ」
「…ほんと…?私が…おばあちゃんになっても…隣に居てくれる…?介護してくれる…?」
「当たり前だろう?だからもう悩むな。俺がお前の全てを受け入れる。悩みも…幸せも」
「うん…うん…十六夜さん…!」
真に分かち合う。
それが夫婦の形だ。
何があろうとも、ずっと傍に。
そう決めたのだから、もう悩まない。
「晴明に謝って来る」
「うん。すぐ戻って来てね…十六夜さん」
名を呼ばれるのがこそばゆく、嬉しかった。
「主さま…?」
「!息吹…寝ていたんじゃないのか」
「寝てたけど…主さま怒ってるの?父様…怒られてるの?」
「ああそうだとも。十六夜に叱られて泣いてしまいたいよ」
「どうして怒られたの?主さま…どうして怒ったの?」
「…」
主さまが黙ったまま俯いていると、息吹は晴明から赤子を受け取って無言のまま部屋を出て行った。
その態度が気になった主さまはすぐさま腰を上げて後を追い、息吹の手を掴んで振り向かせた。
「息吹」
「理由はわかんないけど聴いちゃいけないことっていうのはわかったから。この子にお乳あげないといけないから部屋に戻ってるね。主さまは早く寝た方がいいよ」
「…いい。傍に居る」
「そう?じゃあ行こ」
――息吹は少しやつれた。
元々線は細かったが、最近眠れぬ夜が多く、その理由のひとつとして…自分と夫婦になったことで起きる弊害が含まれていることを晴明から知り、同じ悩みを抱えているのは自分だけではないのだと知って安堵もしたが…
襖を閉めた主さまは赤子を受け取って床に寝かせると、息吹の両肩を掴んで真剣な顔で問うた。
「息吹…俺と夫婦になりたいか?」
「…え?今さら…な、なに?主さまは…違うの?」
「違わない。だが悩みもあるだろう?お前と俺は同じ悩みを抱えている。…そうだな?」
「…いつか…死に別れる悩み…?」
…やっぱり。
みるみる泣き顔に表情が崩れていく息吹を力いっぱい抱きしめて、何度も言い聞かせた。
「…別れは元より承知だ。だがお前を手放せない。ずっと俺の傍に居てくれ。お前が必要なんだ」
「…ほんと…?私が…おばあちゃんになっても…隣に居てくれる…?介護してくれる…?」
「当たり前だろう?だからもう悩むな。俺がお前の全てを受け入れる。悩みも…幸せも」
「うん…うん…十六夜さん…!」
真に分かち合う。
それが夫婦の形だ。
何があろうとも、ずっと傍に。
そう決めたのだから、もう悩まない。
「晴明に謝って来る」
「うん。すぐ戻って来てね…十六夜さん」
名を呼ばれるのがこそばゆく、嬉しかった。