主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
主さまは素直に晴明に頭を下げ、肩を竦められながらも許された。


息吹に笑顔でいてもらいたいのは主さまも晴明も同じ気持ちだ。

今が1番美しい年頃で、そんな時期に悩みが種でやつれてしまうのは見ていてつらい。


「父様、主さまを許してくれてありがとう。喧嘩するなんて珍しいね」


「そうかい?私は意外と短気でねえ。時に荒ぶることもあるんだよ」


渋い顔で茶を啜る主さまを晴明の膝の上から見ていた息吹は、大好きな父代わりの晴明に抱き着きながらこそっと耳打ちをした。


「さっき喧嘩の理由を主さまから聴いたの。…ありがとう、父様」


「許してはやったが完全に許しているわけではないよ。腹いせでもしてやろうと思っていたからちょうどいい」


「え?」


床でころころ転がっている赤子に指を握らせてやっていた主さまに向けて晴明が唇に人差し指をあてて何事が呟いた直後――



「!!ぬ、主さま…!みみみみ、み…っ」


「?…み?」



主さまの頭からは真っ白でふさふさな耳が生え、お尻からもふわふわの尻尾が生えて、興奮した息吹は膝から降りると主さまににじり寄って耳に手を伸ばした。


「俺の頭に何が………せ、晴明!俺に何をした!?」


「ふむ、そうして見ていると同類に見える。見事な白狐っぷりだぞ」


はあはあと息を荒げてふかふかの耳を触りまくって喜ぶ息吹を邪険にもできず、むしろ触ってもらえてこちらも実は興奮気味の主さまは苦労して難しい顔を作って腕組みをすると、息吹を叱った。


「やめろ」


「だって主さまに尻尾と耳が…!可愛いっ!主さますっごく可愛い!」


「……嬉しくない」


へそ曲がりで真逆のことを口にする主さまに笑いを噛み殺して肩で笑った晴明は、烏帽子を手に腰を上げて息吹の頭を撫でた。


「参内して来る。空海に色々問い質して来るから遅くなるだろうが、そなたはゆっくり寝ていなさい」


「はい。父様お気をつけて」


晴明と主さまが1度目配せをした後部屋には息吹と主さまだけになり、急にもじもじし始めると主さまの尻尾にさわさわ触れた。


「いっつも耳と尻尾が生えてたらいいのに」


「冗談じゃない。俺は鬼だぞ」


「じゃあ私に生えてたらどう思う?」


…想像してみるとなかなか可愛らしく、咳払いをした主さまはぷいっと顔を背けて想像に耽った。
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