主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
空海の術を破ってから久方ぶりに朝廷へ参内した晴明は帝の前に座して作り笑顔を浮かべていた。
「いやはや、私の力量では帝のご落胤をお捜しするのは難しいようですな」
「空海は先日まで寝込んでいたし…そなたらは真剣に捜しているのか?子供1人見つけられず情けないと思わないのか」
「こうしてご落胤を捜す羽目になったのも私が発端ですし、努力してはいますよ。それよりも帝…御子が見つかった場合、あなたはどう接するおつもりで?」
一条天皇の柔和な顔立ちに影が差した。
せわしなく扇子を開いたり閉じたりしていた手はぴたりと止まり、晴明を呼び寄せて御簾を下げて密室状態になると、ぐっと顔を近付けて声を抑えた。
「…萌は私の元から勝手に去って行ったのだ。私の指示でもなく、子を身籠っているのも知らなかった。できるならば…もう1度会いたい」
「ほう、萌…様と仰るのですか。女御や女房仕えにお手をお出しに?」
「女御や女房でもない。…位の無い女だったが、美しかった。一夜にと求めて契りを交わしたが…私は萌にのめり込み、夢中になった。…周囲には秘密にしていた」
…驚きの事実だ。
遊び半分で萌に手を出したのだと勝手に想像していた晴明は少しだけ帝を見直し、さらに声を落とした。
「御子はまだ少年だと仰いましたが…つまり御子が見つかれば萌様も見つかる。あなたは両方引き取るおつもりなのですね?」
「そうだ。子に地位を譲った後私は隠居する。子種の無い私など利用価値もなければ邪魔なだけだろうからな。…頼む晴明。萌と…私の子を見つけてくれ」
――今まで母を殺されたことに恨みに恨みを重ねて生きてきたが…
それを晴らしてくれたのは息吹で、復讐にも成功した今、目の前でうなだれる帝にはもはや同情してしまう。
萌と相模を大切にしてくれるのであれば…そうするのが1番だ。
2人共地位が邪魔をして一緒になれなかっただけなのだから。
「今も萌様を想っていると?」
「そうだ。萌だけが私の悩みや苦しみを理解してくれていた。…萌の代わりにと息吹姫を望んだのも事実だ。…晴明…すまなかった」
帝が頭を下げた。
気位の高いこの男が頭を下げるなど青天の霹靂だ。
だから晴明は、帝の手を握って約束をした。
「私にお任せを」
「いやはや、私の力量では帝のご落胤をお捜しするのは難しいようですな」
「空海は先日まで寝込んでいたし…そなたらは真剣に捜しているのか?子供1人見つけられず情けないと思わないのか」
「こうしてご落胤を捜す羽目になったのも私が発端ですし、努力してはいますよ。それよりも帝…御子が見つかった場合、あなたはどう接するおつもりで?」
一条天皇の柔和な顔立ちに影が差した。
せわしなく扇子を開いたり閉じたりしていた手はぴたりと止まり、晴明を呼び寄せて御簾を下げて密室状態になると、ぐっと顔を近付けて声を抑えた。
「…萌は私の元から勝手に去って行ったのだ。私の指示でもなく、子を身籠っているのも知らなかった。できるならば…もう1度会いたい」
「ほう、萌…様と仰るのですか。女御や女房仕えにお手をお出しに?」
「女御や女房でもない。…位の無い女だったが、美しかった。一夜にと求めて契りを交わしたが…私は萌にのめり込み、夢中になった。…周囲には秘密にしていた」
…驚きの事実だ。
遊び半分で萌に手を出したのだと勝手に想像していた晴明は少しだけ帝を見直し、さらに声を落とした。
「御子はまだ少年だと仰いましたが…つまり御子が見つかれば萌様も見つかる。あなたは両方引き取るおつもりなのですね?」
「そうだ。子に地位を譲った後私は隠居する。子種の無い私など利用価値もなければ邪魔なだけだろうからな。…頼む晴明。萌と…私の子を見つけてくれ」
――今まで母を殺されたことに恨みに恨みを重ねて生きてきたが…
それを晴らしてくれたのは息吹で、復讐にも成功した今、目の前でうなだれる帝にはもはや同情してしまう。
萌と相模を大切にしてくれるのであれば…そうするのが1番だ。
2人共地位が邪魔をして一緒になれなかっただけなのだから。
「今も萌様を想っていると?」
「そうだ。萌だけが私の悩みや苦しみを理解してくれていた。…萌の代わりにと息吹姫を望んだのも事実だ。…晴明…すまなかった」
帝が頭を下げた。
気位の高いこの男が頭を下げるなど青天の霹靂だ。
だから晴明は、帝の手を握って約束をした。
「私にお任せを」