主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「空海…そなた…何をする気だ?」
「すぐにわかります。あなた様にお願いしていたものはすべて用意して頂けましたでしょうか?」
一条天皇は朝廷の大きな庭に用意された大きな護摩壇と、砂利を取り除いた後に敷き詰められた数えきれない量の数珠玉を見て不安にかられた。
…この男は御子捜しなどしていないのだと、ここになってようやく気付いたのだ。
「帝よ、その考えは違います。私は確と御子捜しもしておりましたし、本日中にお会いすることができるでしょう。お約束いたします」
「真か?ではこの護摩壇は何のために…」
一条天皇の顔色を読んで笑った空海に対し、ずっと見張りをしていた道長は晴明に警告をするために空海から離れて馬に乗り込もうとして、止められた。
「道長殿、少々お話が」
「…俺は急いでいる。ここで聴く」
「いえ、それがあまり大きな声では言えぬことですので…」
武将としての勘が“これは罠だ”と警鐘を鳴らしたが、空海の澄んだ黒瞳で見つめられた道長は、言われるがままに後宮の奥深くへと誘い込まれた。
「さあ道長殿…あなたの出番がやって来ましたよ」
「…俺の…出番…?」
「私を見なさい。そう…ゆっくり瞬きをして。今からあなたは私の言うことを忠実に遂行してくる。あなたはこれから晴明殿の屋敷へ行き、最も大切なものをここへ運んで来るのです」
「俺の…大切なもの…」
――目がとろんとなり、空海の暗示にかかってしまった道長の頭に真っ先に浮かんだのは…息吹だ。
息吹が幼い頃から知っていて、美しく成長してからは女として見るようになり、妻にと望んだが…
まさか妖の男を愛そうとは想像もしていなかった。
しかもあの妖は…この国の妖を束ねる主だ。
「何者かに奪われる前にその腕に抱きたいでしょう?息吹姫を妻にするためにはここへ連れて来なければならない。さあ、今から何をするかはもうわかりますね?」
「息吹を…ここに…。俺の…妻に…」
ふらりと脚が動き、操り人形のような動作で空海の部屋から出て行った道長は、息吹を攫ってここへ連れてくることしか頭になかった。
…妖が息吹を幸せにできるはずなどない。
そう固く信じていた。
「すぐにわかります。あなた様にお願いしていたものはすべて用意して頂けましたでしょうか?」
一条天皇は朝廷の大きな庭に用意された大きな護摩壇と、砂利を取り除いた後に敷き詰められた数えきれない量の数珠玉を見て不安にかられた。
…この男は御子捜しなどしていないのだと、ここになってようやく気付いたのだ。
「帝よ、その考えは違います。私は確と御子捜しもしておりましたし、本日中にお会いすることができるでしょう。お約束いたします」
「真か?ではこの護摩壇は何のために…」
一条天皇の顔色を読んで笑った空海に対し、ずっと見張りをしていた道長は晴明に警告をするために空海から離れて馬に乗り込もうとして、止められた。
「道長殿、少々お話が」
「…俺は急いでいる。ここで聴く」
「いえ、それがあまり大きな声では言えぬことですので…」
武将としての勘が“これは罠だ”と警鐘を鳴らしたが、空海の澄んだ黒瞳で見つめられた道長は、言われるがままに後宮の奥深くへと誘い込まれた。
「さあ道長殿…あなたの出番がやって来ましたよ」
「…俺の…出番…?」
「私を見なさい。そう…ゆっくり瞬きをして。今からあなたは私の言うことを忠実に遂行してくる。あなたはこれから晴明殿の屋敷へ行き、最も大切なものをここへ運んで来るのです」
「俺の…大切なもの…」
――目がとろんとなり、空海の暗示にかかってしまった道長の頭に真っ先に浮かんだのは…息吹だ。
息吹が幼い頃から知っていて、美しく成長してからは女として見るようになり、妻にと望んだが…
まさか妖の男を愛そうとは想像もしていなかった。
しかもあの妖は…この国の妖を束ねる主だ。
「何者かに奪われる前にその腕に抱きたいでしょう?息吹姫を妻にするためにはここへ連れて来なければならない。さあ、今から何をするかはもうわかりますね?」
「息吹を…ここに…。俺の…妻に…」
ふらりと脚が動き、操り人形のような動作で空海の部屋から出て行った道長は、息吹を攫ってここへ連れてくることしか頭になかった。
…妖が息吹を幸せにできるはずなどない。
そう固く信じていた。