主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
百鬼夜行を終えたばかりのためにまだ各々の寝床に戻っていなかった妖も多く、主さまが厳しい表情で戻ると、百鬼たちの間に動揺が走った。


「主さま?どうしたんだ?」


「…息吹が空海という坊主に何かしらの術をかけられ、衰弱している」


「!息吹が!?主さま、あたし今から息吹の所に…!」


母代りの山姫が焦ってすぐさま駆けて行こうとしたので、その腕を掴んで引き留めた晴明は主さまと同じ位に真剣な顔で首を振った。


「退魔の結界を張っているから中へは入れぬ。で、知恵を借りようと参じたのだが…」


縁側で煙管を吹かしていたぬらりひょんが百鬼がざわめく中、ぽつりと呟いた。


「空海と言う男の噂を聴いたことがある。唐に渡り、仏と結縁して得たその力を使って妖を滅するのが目的らしい。十六夜よ、戦いの時が来たんじゃよ」


「最終目的が俺たちの殲滅ならば、息吹は関係ないんじゃないか?どう関係ある?」


「あの娘っ子の祖先は神じゃった。ともすれば眠っているかもしれぬ力を揺り起こすために術をかけたのでは?」


「息吹が…息吹が狙われている!?大変だ主さま、今すぐ空海を殺しに行こう!」


ざわめきがどよめきに変わり、最終的には悲鳴や怒号のようなものに変わった。

息吹が幼い頃から知っている百鬼たちは、また自分たちの姫が奪われるかもしれない不安と激怒に身を委ね、今にも爆発しそうになっている。


「…静まれ」


主さまのたった一言でぴたりと喧騒は止んだが、皆が食い入るように主さまを見つめて命令を待った。


「…銀を追って戻って来てはみたが、偶然息吹と出会って内に秘める何かを感じた、と?そして…息吹を使って俺たちを殺すつもりだと言いたいんだな?」


「恐らくは。何かを植え付けたか、または元々何かが眠っていて、それを起こそうとしているかのどちらかじゃな。十六夜…あの娘っ子と戦えるか?」


「…晴明の屋敷に戻る。晴明、ついて来い」


――息吹と戦えるはずがない。


だが息吹を操ろうとしている空海を殺せば…息吹は元通りになるだろう。


「息吹…!」


もし息吹と戦うことになったら――


この命を息吹に捧げても構わない。


この手にかけるくらいならば、その方がいい――
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