主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
まさか歓迎されるとは――
一条天皇に強く抱きしめられた萌は、腕を振り解いてすぐさまその場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「お願いいたします、どうか…どうかこれ以上晴明様たちに危険が及ばぬようお願い申し上げます!」
「晴明…?そなた…晴明の元に居たのか?いや、そもそも一体どうなっている?空海!説明せよ!」
先程からずっと念仏を唱えている空海に声をかけたが一向に返事はなく、一条天皇は萌を抱き起して逸る思いで牛車を指した。
「萌…私の子は…」
「中に…。道長様に腹を殴られて気絶しております。どうか…どうかこれ以上は!息吹さんが死んでしまいます!」
「息吹姫が…?」
事の経緯を全く聴いていない一条天皇は優しげな顔を強張らせて空海に近寄ろうとしたが、庭に敷き詰められた数珠玉から火花が散り、近付くことができない。
…唐から帰ってきた高名な高僧を頼ったものの…
どうやらこの男は自分のあずかり知らぬところでよからぬ計画を立てていたらしい。
「恐ろしい…私は恐ろしい男の力を借りてしまったのでは…」
「帝…」
「そなたらは中へ。誰か!誰か晴明を呼びに行け!」
馬を向かわせつつ牛車の中から相模を抱き起し、自分とよく似ている我が子に胸が熱くなった一条天皇は、しきりに晴明を庇う萌を促して建物の中へ入りながら唇を噛み締めた。
「空海と晴明は協力し合っていたものと思っていたが…」
「違います!晴明様はいつも空海と言う僧のことで頭を悩ましておられました。私たちと晴明様のことは後でお話しますから、早く晴明様をここに!」
その時朝廷に傘を被った法衣姿に錫杖を持った大勢の僧たちが現れた。
彼らは空海から頼まれていた阿闍梨で、徳の高い高僧だ。
子を見つけるのに必要だと言われてほいほい地方から呼び寄せたのだが…
「何をする気だ…空海…!」
もう後戻りのできないところまで来ていた。
空海が待っているものは、もう直ここへ届く。
「私の願いがもうすぐ叶う…。もうすぐ…」
――息吹は幸せな夢を見ていた。
主さまと子供たちと一緒に笑い合っている夢を。
とてもとても幸せな夢を。
一条天皇に強く抱きしめられた萌は、腕を振り解いてすぐさまその場に膝をつき、深々と頭を下げた。
「お願いいたします、どうか…どうかこれ以上晴明様たちに危険が及ばぬようお願い申し上げます!」
「晴明…?そなた…晴明の元に居たのか?いや、そもそも一体どうなっている?空海!説明せよ!」
先程からずっと念仏を唱えている空海に声をかけたが一向に返事はなく、一条天皇は萌を抱き起して逸る思いで牛車を指した。
「萌…私の子は…」
「中に…。道長様に腹を殴られて気絶しております。どうか…どうかこれ以上は!息吹さんが死んでしまいます!」
「息吹姫が…?」
事の経緯を全く聴いていない一条天皇は優しげな顔を強張らせて空海に近寄ろうとしたが、庭に敷き詰められた数珠玉から火花が散り、近付くことができない。
…唐から帰ってきた高名な高僧を頼ったものの…
どうやらこの男は自分のあずかり知らぬところでよからぬ計画を立てていたらしい。
「恐ろしい…私は恐ろしい男の力を借りてしまったのでは…」
「帝…」
「そなたらは中へ。誰か!誰か晴明を呼びに行け!」
馬を向かわせつつ牛車の中から相模を抱き起し、自分とよく似ている我が子に胸が熱くなった一条天皇は、しきりに晴明を庇う萌を促して建物の中へ入りながら唇を噛み締めた。
「空海と晴明は協力し合っていたものと思っていたが…」
「違います!晴明様はいつも空海と言う僧のことで頭を悩ましておられました。私たちと晴明様のことは後でお話しますから、早く晴明様をここに!」
その時朝廷に傘を被った法衣姿に錫杖を持った大勢の僧たちが現れた。
彼らは空海から頼まれていた阿闍梨で、徳の高い高僧だ。
子を見つけるのに必要だと言われてほいほい地方から呼び寄せたのだが…
「何をする気だ…空海…!」
もう後戻りのできないところまで来ていた。
空海が待っているものは、もう直ここへ届く。
「私の願いがもうすぐ叶う…。もうすぐ…」
――息吹は幸せな夢を見ていた。
主さまと子供たちと一緒に笑い合っている夢を。
とてもとても幸せな夢を。