主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
夜になると、続々と妖が屋敷に集結し始めた。


今夜の百鬼夜行を行うためだ。

これは人を襲うためのものではない。

昼は人間の世界で、夜は妖怪の世界。それを知らしめるために、行進するのだ。


主さまは規律を乱すことを何よりも嫌い、幽玄町の人間を襲う者が出たら容赦なく殺してきた。


なので、この町に住む妖たちは、幽玄町に住む人間が罪を犯し、罰せなければならない場合、その人間を食うことのみを許されている。


「俺最近人間食ってねえなあ」


「氷漬け人間なんざ美味くねえよ、人間は生きてる時に食うのが1番美味いんだ」


庭で言い合いをしているのは、修験者の格好をしているものすごく鼻の長い天狗と呼ばれる妖と、そして最近雪女が生んだ雪男だった。


雪男は何でも凍らせて食べてしまうので、天狗からそうやってからかわれるとふてくされて庭の岩に腰を下ろす。

まだ若く、雪女の子供なだけに色白で髪が青く、きつい顔立ちをした雪男はなかなか起きてこない主さまの寝室に目を遣った。


「ん?なんか声が聴こえないか?」


百鬼たちが集結し始めてかなり時間が経ったのに一向に姿を見せないので、主さまの寝室に忍び寄った時――


「今日の百鬼夜行は中止だ」


中から主さまが出て来た。


ただ…手には、人間の赤ん坊。


「それは人間の…」


「ああ、いずれ俺の食い物になる」


…主さまが人間を育てる…?


皆がぽかんとして、主さまの隣に立っている山姫が腕から息吹と言う名の赤ん坊をどうにかして奪い取ろうとしていたのだが、背の高い主さまから阻まれて声を荒げた。


「主さま、私にも抱かせて下さいまし!」


「これは俺のだぞ」


「私がここまで連れて来たんですよ?さあ、早く!」


凄まれて仕方なく山姫に手渡すと、いつも表情を変えない主さまが縁側に腰を下ろし、唖然としている妖怪集団を見て舌打ちをした。


「…なんだ、文句でもあるのか?」


「い、いえ。その…主さまが人間を育てるのですか?」


「そうだ。この子は美女になる。育ったら、俺が食う」


成長したら美味しく頂こう。


初物を美味しく――
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