主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
その頃阿闍梨たちを洗脳して操っていた空海の元に息吹が運び込まれた。

知らせを聞いた一条天皇が空海の前に立ちはだかろうとしたのだが、すぐに阿闍梨たちに囲まれて身動きひとつ取れなくなってしまった。


それに庭には彼ら以外降りることができない。

砂利のように見えるのは一粒一粒が数珠玉で、結界のような役割を果たしていた。


「息吹姫が…!道長、そなた何をしている!?晴明の友人ではなかったのか!?」


廊下の手すりから身を乗り出して道長に声をかけたが、虚ろな瞳をして腕に抱いた息吹を空海に渡そうとしている道長に何度も何度も訴えかけた。


「道長!晴明がこれを知ったならばどう思う!?そなたは無二の友人だったはずだぞ!晴明を理解できるのはそなただけだったはずだぞ!」


「……う…っ、せい、めい…?」


「道長殿、息吹姫をこちらに」


頭痛がするのか顔を歪めた道長に声が届いていることを確信した道長は、身を震わせている萌と相模の肩を抱きながらなおも言い募った。


「息吹姫もそなたの大切な者だったのではないのか!そもそもそなたは術に操られるような弱き者だったか!?男気溢れて仲間に慕われる男だっただろう!?」


「いぶ、き…?そうだ…俺、は…息吹を浚って…」


――道長は腕に抱いた息吹を見下ろしてまた顔を歪めた。


そうだ…息吹を浚ったのは自分なのだと思い出して、空海から1歩1歩後ずさりをして息吹を渡すことを身体が魂が、拒んだ。


「道長殿…術を破るとはさすがですな。だがもう遅い。息吹姫を見なさい、もう目覚める頃です」


息吹の身体は燃えるように熱く、瞼がぴくぴくと動いて意識が覚醒しようとしているように見えた。

そうしているうちに道長の思考もどんどん鮮明になってきて護摩壇から降りようとしたが、敷き詰められた数珠玉に触れた途端身体に雷が走ったような衝撃に遭い、膝から崩れ落ちた。


「息吹…っ!」


「よくここまで息吹姫を運んで下さいました。後は私に任せなさい。私が良き力に使って差し上げよう」


相変わらず優男な顔に柔和な笑顔を浮かべた空海は、袖を払って道長の腕から息吹を受け取ると、炎の燃え盛る護摩の前にゆっくりと横たえさせた。


もうすぐ、完成する。
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