主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
遠くからそれを見ていた萌と相模は凍り付いて動けない朝廷の人間たちとは違い、ありったけの声を振り絞って息吹に呼びかけ続けた。
「息吹さん!もうすぐ晴明様が助けに来てくれます!頑張って!」
「息吹!しっかりしろ!息吹!」
遠目に見える息吹は白い浴衣を着せられて、まるでそれが死に装束に見えてぞっとしていると、遠くから笛や太鼓の音が聴こえた。
それも…空からだ。
「な、なんだあれは…!?」
紫色の雲がみるみる頭上に広がり、ぴかぴかと光りながら上空を歩く者たちの姿を照らし出した。
「ひぃっ!あれは妖だ!しかも…百鬼夜行…!?」
「先頭の男を見ろ!あれは幽玄町の主さまだ!百鬼夜行の頭の…!」
――萌と相模は呆然とした。
先頭に立っている男は息吹が“十六夜さん”と呼んで親しげにしていた男で、しかも額に2本の角が生えている。
その男の後方に数えきれないほどの大群で楽器を吹き鳴らしている妖たちは、夜に絶対会ってはならないと言われている百鬼夜行の妖たちだ。
「やっぱり…あの人が主さまなのか…!」
「相模!?あなた知って…」
「…お母ちゃん、もう大丈夫だよ。あの人が息吹を助けに来てくれたんだ。だから大丈夫。お母ちゃんは中で避難してて。俺はここで見てるから。……お父ちゃんと一緒に」
「…相模…」
目覚めた時抱きしめてくれた男は服装からも位の高い男だとわかっていたが、帝だと知って仰天したのはさっきのこと。
だが今同じくらい仰天するものを見上げている相模は、一条天皇が握ってきた手に力をこめるとまた空を見上げた。
「来たか。そなたが幽玄町の主だな」
「息吹を返してもらう。指1本息吹に触れるな」
「私はそなたのような妖が国を跋扈していることが許せぬ。この国は正されるべきだ。大いなる力によって」
「…何を言っている?それと息吹がどう関係がある」
「わからぬならそれでいい。もうすぐ術は完成する。私がそなたに殺されたとしても、術は解けぬ。残念だったな」
舌打ちした主さまが天叢雲を握りしめると、晴明が護摩壇の短い階で倒れている道長に気付き、瞳をすうっと細めた。
「道長…哀れな。仏に仕えながらも魔に取り入られた男に利用されたのだな。十六夜、私も戦うぞ」
ぼそりと“解”と呟き、晴明の身体が発光した。
「息吹さん!もうすぐ晴明様が助けに来てくれます!頑張って!」
「息吹!しっかりしろ!息吹!」
遠目に見える息吹は白い浴衣を着せられて、まるでそれが死に装束に見えてぞっとしていると、遠くから笛や太鼓の音が聴こえた。
それも…空からだ。
「な、なんだあれは…!?」
紫色の雲がみるみる頭上に広がり、ぴかぴかと光りながら上空を歩く者たちの姿を照らし出した。
「ひぃっ!あれは妖だ!しかも…百鬼夜行…!?」
「先頭の男を見ろ!あれは幽玄町の主さまだ!百鬼夜行の頭の…!」
――萌と相模は呆然とした。
先頭に立っている男は息吹が“十六夜さん”と呼んで親しげにしていた男で、しかも額に2本の角が生えている。
その男の後方に数えきれないほどの大群で楽器を吹き鳴らしている妖たちは、夜に絶対会ってはならないと言われている百鬼夜行の妖たちだ。
「やっぱり…あの人が主さまなのか…!」
「相模!?あなた知って…」
「…お母ちゃん、もう大丈夫だよ。あの人が息吹を助けに来てくれたんだ。だから大丈夫。お母ちゃんは中で避難してて。俺はここで見てるから。……お父ちゃんと一緒に」
「…相模…」
目覚めた時抱きしめてくれた男は服装からも位の高い男だとわかっていたが、帝だと知って仰天したのはさっきのこと。
だが今同じくらい仰天するものを見上げている相模は、一条天皇が握ってきた手に力をこめるとまた空を見上げた。
「来たか。そなたが幽玄町の主だな」
「息吹を返してもらう。指1本息吹に触れるな」
「私はそなたのような妖が国を跋扈していることが許せぬ。この国は正されるべきだ。大いなる力によって」
「…何を言っている?それと息吹がどう関係がある」
「わからぬならそれでいい。もうすぐ術は完成する。私がそなたに殺されたとしても、術は解けぬ。残念だったな」
舌打ちした主さまが天叢雲を握りしめると、晴明が護摩壇の短い階で倒れている道長に気付き、瞳をすうっと細めた。
「道長…哀れな。仏に仕えながらも魔に取り入られた男に利用されたのだな。十六夜、私も戦うぞ」
ぼそりと“解”と呟き、晴明の身体が発光した。