主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
晴明の身体が白光した後、隣に立っていた主さまは晴明を見てくすりと笑った。


「…今のお前を見たら息吹がどうなることか」


「そうだろう?だから今まであの子にこの姿を見せたことはないのだよ」


耳には銀と同じく真っ白な耳。

お尻にも銀と同じく真っ白でふさふさな尻尾。


白狐の母を持った晴明は封印していた力を解き放ち、白狐そのものになっていた。


「そなたとて息吹から好きなだけ触られただろう?私のおかげだぞ」


「…息吹はどうなる?今どういう状態だ?」


庭には大勢の阿闍梨が待ち受けており、今か今かとこちらが降りて行くのを待っている様子だ。

対してこちらは楽器を吹き鳴らし、力なく護摩壇の炎の前で横たわっている息吹を見つけた百鬼たちは空海たちに憎悪の炎を燃やして叫び続けていた。


「息吹ー!助けに来たからな!俺たちが今から行くから待ってろ!」


「空海は主さまに任せて雑魚共は俺たちでやっちまおう!主さま、号令を!」


――こちらを見上げている空海は純粋で無邪気な笑みを浮かべており、階で倒れている道長の腕が少し動いたのを見た主さまは、晴明の肩を1度掴んで道長を指した。


「お前はあっちを。空海を殺したとしても術が解けないと言っていたが…息吹はどうなる?」


「わからぬ。だが禍々しいものを感じる。あの子の身体に何かが降りようとしているやもしれぬ。そうなると…手こずるぞ」


「…とにかく邪魔な坊主共を倒す。天叢雲よ、出番が来たぞ」


『やっとか。徳の高い坊主共を斬らせろ。魂を食わせろ』


封印の役目を備えている鞘から刀身をすうっと抜くと、一気に妖気が膨らんで地上には失神者が続出した。

今回朝廷の者は何ら関わりがないので、晴明は指を組み合わせて印を作ると建物に結界を張り、被害が及ばぬように留意しながらも息吹を観察し続けた。


…いやな予感が背筋を這い上がる。

空海は息吹を使って何かを降臨させようとしているのだ。

祖先を神に持つ息吹ならば可能かもしれないが、何を降ろして何をしようとしているのか、予想がつかない。


「十六夜、号令を」


「百鬼共よ。坊主共を排除し、息吹を奪還しろ。全力で戦え。百鬼夜行の恐ろしさを見せつけろ!」


「おぉーー!」


地鳴りが轟いた。
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