主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹の放った力が阿修羅を蝕み、勢力を根こそぎ削いだ。


だが阿修羅の執念も凄まじく、まずはこの世界を滅ぼした後に正義を騙る帝釈天を引きずり出して殺す――その一心で息吹の身体にしがみついていた。


『我は、そなたの身体を使って…っ、報復を為す!邪魔を、するな…!』


「これは私の身体!私の身体には私しか居なくていいの!あなたのせいで雪ちゃんが…!私のせいで雪ちゃんが…!絶対許さないんだから!」


人ではないと確信して納得した瞬間から息吹の力は覚醒し、白い矢の光のような光線が阿修羅に突き刺さり、大柄だった阿修羅の身体はどんどん小さくなっていった。

…敗けられない。

業火荒れ狂う中待ってくれている主さまや晴明、百鬼たちのためにも――敗けられない。



『我は、愛しき娘のために、報復を…っ』


「あなたに同情はするけど私の身体を使って報復なんてしないで。私はただ穏やかに暮らしていきたいだけなの。主さまとみんなと…!」



突き出した両手の掌から光が炸裂し、脚を踏ん張って耐えていた阿修羅の身体はとうとう子犬程の大きさになって後方に倒れ込んだ。

そしてぴくりとも動こうとはしないので、息吹は肩で大きく息をしながらも強敵との勝利にほっとして、光の方に向かって走り出した。


「主さま…!」


――抱きしめた息吹がぴくりとも動かなくなり、熱くなっていた身体から徐々に熱が引いていくのがわかった。


あの小さな身体で阿修羅と戦っているのだと思うと、せつなくなって、居たたまれなくなって、愛しくなる。


「息吹…頑張れ…!息吹…」


「阿修羅の力が弱まっている。もうすぐきっと、取り戻せる」


晴明が足元で何かを拾う仕草をしてそれを懐に収めると、主さまは腕の中で身じろぎをした息吹を見下ろした。


「…息吹?」


「…主さま…」


「息吹なのか?お前…やったんだな?阿修羅を…」


「うん…!主さま…!」


くしゃっと笑った息吹が身体に腕を回して抱き着いてくると百鬼から歓声が上がり、安堵した主さまは息吹をまたぎゅうっと抱きしめた。


本当に、これで終わったと思ったのに――



「!十六夜、避けろ!」


「…?…う…ぁ……っ!!」



身体を風が通って行った。

自身の身体を見下ろすと、腹には…大穴が開いていた。

息吹の腕が、貫いていた。
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