主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
興奮した息吹が晴明の尻尾と耳を撫で回している姿を羨ましげに横目で見ていた主さまは、雪男の死をいつ切り出そうかと内心悩んでいた。
…阿修羅に一瞬の隙を作ることには成功したが…
息吹は雪男をとても慕っていたし、雪男は息吹を愛していたし、きっと…きっと泣いて…沢山泣いて、傷つくだろう。
晴明がわざと尻尾と耳をぴょこぴょこ動かして息吹を喜ばせている間に真剣に苦悩していた主さまの表情にほくそ笑んだ晴明は、息吹の両脇を抱えて膝に乗せると顔を覗き込んだ。
「息吹…父様が今から尋ねることに正直に答えてほしい。いいかい?」
「はい。どうしたの?」
まだ身体がぎしぎし痛むのか、胸にもたれ掛ってきた息吹の髪を撫でた晴明は、瞳を閉じて地獄絵図と化していた朝廷を思い浮かべた。
「どこからどこまでを覚えている?わかる範囲でいいから思い出しておくれ」
「…ずっと寝てて…そしたら男の人の怖い声が聴こえて…“身体を寄越せ”って言われて…ずっと抵抗してたの。でも負けちゃって…身体が勝手に動いて、覚えてることもあるけど、覚えてないこともあるの」
「猫又を傷つけたのは覚えているんだね?では…雪男は?」
「雪ちゃん…?…雪ちゃん……雪ちゃん…」
雪男に抱きしめられて、けれど氷でできている雪男の身体は発熱している息吹の熱によってすぐに溶けて蒸発した――
半狂乱になって叫んだ息吹の意識が一瞬覚醒したと思ったらまた阿修羅に乗っ取られて主さまが傷つけられた――
その一連の流れを晴明に問われたことで思い出した息吹は、両手で口元を覆ってがたがたと震えだした。
「私…やっぱり雪ちゃんを殺しちゃったの…?主さまを傷つけたのは…私…?!」
「…そなたではない。そなたの身体を操っていた阿修羅がやったことだ。だから苦しむ必要はない。十六夜の傷も木花咲耶姫によって治ったのだから」
「でも!雪ちゃんが!」
――主さまも雪男が死んだものと思っていた。
その主さまも雪男はもう死んだと思っていたので沈痛な面持ちで俯いていると、晴明が広間に向かって声をかけたのは…雪女。
「雪女、こちらへ来なさい」
「ええ。主さま…息吹さん…」
やって来た雪女は何故か微笑んでいて、その手には…小さな氷の塊が。
…阿修羅に一瞬の隙を作ることには成功したが…
息吹は雪男をとても慕っていたし、雪男は息吹を愛していたし、きっと…きっと泣いて…沢山泣いて、傷つくだろう。
晴明がわざと尻尾と耳をぴょこぴょこ動かして息吹を喜ばせている間に真剣に苦悩していた主さまの表情にほくそ笑んだ晴明は、息吹の両脇を抱えて膝に乗せると顔を覗き込んだ。
「息吹…父様が今から尋ねることに正直に答えてほしい。いいかい?」
「はい。どうしたの?」
まだ身体がぎしぎし痛むのか、胸にもたれ掛ってきた息吹の髪を撫でた晴明は、瞳を閉じて地獄絵図と化していた朝廷を思い浮かべた。
「どこからどこまでを覚えている?わかる範囲でいいから思い出しておくれ」
「…ずっと寝てて…そしたら男の人の怖い声が聴こえて…“身体を寄越せ”って言われて…ずっと抵抗してたの。でも負けちゃって…身体が勝手に動いて、覚えてることもあるけど、覚えてないこともあるの」
「猫又を傷つけたのは覚えているんだね?では…雪男は?」
「雪ちゃん…?…雪ちゃん……雪ちゃん…」
雪男に抱きしめられて、けれど氷でできている雪男の身体は発熱している息吹の熱によってすぐに溶けて蒸発した――
半狂乱になって叫んだ息吹の意識が一瞬覚醒したと思ったらまた阿修羅に乗っ取られて主さまが傷つけられた――
その一連の流れを晴明に問われたことで思い出した息吹は、両手で口元を覆ってがたがたと震えだした。
「私…やっぱり雪ちゃんを殺しちゃったの…?主さまを傷つけたのは…私…?!」
「…そなたではない。そなたの身体を操っていた阿修羅がやったことだ。だから苦しむ必要はない。十六夜の傷も木花咲耶姫によって治ったのだから」
「でも!雪ちゃんが!」
――主さまも雪男が死んだものと思っていた。
その主さまも雪男はもう死んだと思っていたので沈痛な面持ちで俯いていると、晴明が広間に向かって声をかけたのは…雪女。
「雪女、こちらへ来なさい」
「ええ。主さま…息吹さん…」
やって来た雪女は何故か微笑んでいて、その手には…小さな氷の塊が。