主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹には雪女が愛しそうに掌に乗せている氷の塊が何だかわからずにしゃくり上げながら雪女を見つめていた。
…だが主さまは百鬼の主として、その氷の塊の正体にすぐに気が付いて思わず腰を浮かせて瞳を見開いた。
「まさか…だがあの時雪男は…」
「私の術がなんとか間に合った。だがご覧の通り今の雪男は赤子と同じ故、元の姿に戻るまでに長い時を要するだろう。今までの記憶も備えているかわからぬが、いずれまたそなたの力となるために蘇る」
「…え…?それ…その氷…雪ちゃんなの…?」
ぴたりと鳴き止んだ息吹が晴明の膝から降りて、膝をつきながら雪女ににじり寄ると、雪女は縁側に正座をすると、両手で包み込むように抱いている氷の塊…雪男を差し出した。
「また息吹さんの元に戻って来るわ。それまでは地下室の氷室でそっと眠らせてやりましょう。日々大きくなるはずだから、よかったら毎日会いに行ってあげてほしいの」
「うん…!うん!雪ちゃん…ごめんね、ありがとう…!雪ちゃんのおかげで私…私自身を取り戻したよ。雪ちゃん…っ」
泣き崩れた息吹の背中をそっと撫でた主さまは、まだ息吹の息が上がっていることに気が付いて、息吹を抱っこすると自分の部屋へと連れて行った。
「まだ休め。…お前の部屋だと見舞いに来る百鬼が出入りしてしまってゆっくりできないだろうから、しばらくは俺の部屋に居ろ」
「うん…。父様…ありがとう!雪ちゃんを助けてくれてありがとう…。ぅ、ひっく…」
「いいんだよ。雪男が死ぬとそなたが悲しむ故、私も悲しくなるからね。さあ、ゆっくり眠りなさい」
「はい…」
床に座らせた息吹の手に薬湯が入った湯呑を押し付けた主さまは、息吹が全て飲み終わるまで見守ると、身体を横たえさせた。
「俺が見ていてやる。お前の夢にはもう阿修羅は現れないからゆっくり眠れ」
「うん…。主さま…お腹はもう痛くない?」
「痛くない。俺のことは気にするな。もう眠れ」
――瞳がとろとろしだした息吹は主さまの着物の帯に手を伸ばして自分の髪飾りに触れた。
夢現にもあの時、鈴の音も聴こえた。
自分を救ってくれたのは…雪男と主さまと晴明。
そして百鬼たち。
…皆と同じ位生きてゆける。
それがとても嬉しくて、また泣けてきた。
…だが主さまは百鬼の主として、その氷の塊の正体にすぐに気が付いて思わず腰を浮かせて瞳を見開いた。
「まさか…だがあの時雪男は…」
「私の術がなんとか間に合った。だがご覧の通り今の雪男は赤子と同じ故、元の姿に戻るまでに長い時を要するだろう。今までの記憶も備えているかわからぬが、いずれまたそなたの力となるために蘇る」
「…え…?それ…その氷…雪ちゃんなの…?」
ぴたりと鳴き止んだ息吹が晴明の膝から降りて、膝をつきながら雪女ににじり寄ると、雪女は縁側に正座をすると、両手で包み込むように抱いている氷の塊…雪男を差し出した。
「また息吹さんの元に戻って来るわ。それまでは地下室の氷室でそっと眠らせてやりましょう。日々大きくなるはずだから、よかったら毎日会いに行ってあげてほしいの」
「うん…!うん!雪ちゃん…ごめんね、ありがとう…!雪ちゃんのおかげで私…私自身を取り戻したよ。雪ちゃん…っ」
泣き崩れた息吹の背中をそっと撫でた主さまは、まだ息吹の息が上がっていることに気が付いて、息吹を抱っこすると自分の部屋へと連れて行った。
「まだ休め。…お前の部屋だと見舞いに来る百鬼が出入りしてしまってゆっくりできないだろうから、しばらくは俺の部屋に居ろ」
「うん…。父様…ありがとう!雪ちゃんを助けてくれてありがとう…。ぅ、ひっく…」
「いいんだよ。雪男が死ぬとそなたが悲しむ故、私も悲しくなるからね。さあ、ゆっくり眠りなさい」
「はい…」
床に座らせた息吹の手に薬湯が入った湯呑を押し付けた主さまは、息吹が全て飲み終わるまで見守ると、身体を横たえさせた。
「俺が見ていてやる。お前の夢にはもう阿修羅は現れないからゆっくり眠れ」
「うん…。主さま…お腹はもう痛くない?」
「痛くない。俺のことは気にするな。もう眠れ」
――瞳がとろとろしだした息吹は主さまの着物の帯に手を伸ばして自分の髪飾りに触れた。
夢現にもあの時、鈴の音も聴こえた。
自分を救ってくれたのは…雪男と主さまと晴明。
そして百鬼たち。
…皆と同じ位生きてゆける。
それがとても嬉しくて、また泣けてきた。