主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
雪男が生きている――
その知らせは百鬼たちを喜ばせて、また息吹が人の寿命で死ぬのではなく、同じように長く生きることができるとわかって狂喜乱舞させた。
だが件の雪男と、身体を休めなくてはならない息吹に会うことは適わず、いつものように毎日百鬼夜行に出なくてはならない。
その間は息吹は主さまの隣の部屋で眠り、その守りを晴明が固めた。
そして――
「晴明、これを息吹に飲ませてやりな」
「おお、すまぬ。だんだん顔色が良くなってきた」
数日を要して息吹の体調が回復してきたが、木花咲耶姫の生まれ変わりではあれど人としての身体の脆さはそのままの息吹はまだ歩けるような状態ではない。
あまり食べ物も口にしていないので、もっぱら晴明が調合した薬を溶かした薬湯を飲んではまた眠る日々を繰り返し、薬湯を運んできた山姫は晴明の隣に腰を下ろして息吹の頭を撫でた。
「大変だったんだね…。あたしはもう…この子が戻って来ないんじゃないかと思って胸が潰れる想いだったよ」
「私も実は駄目かと思ったが諦めるわけにはいかなかった。この子は私の愛娘で、今もそれに変わりない。だがまだ調べなければならぬことも沢山ある」
「そうだね…。あんたもよく頑張ったよ。あんたが倒れたら元も子もないんだからちゃんと休みな」
「そうだな。私が倒れた時はそなたに看病してもらおうか」
「ふん、絶対いやだからね。式神にでも世話してもらいな」
“この戦いが終わったらそなたを妻に迎える”
――晴明にそう断言された山姫はその言葉を意識してしまって腰を上げて部屋から出て行こうとする手を晴明がやんわりと握った。
固まってしまった山姫がかくかくとした動作で晴明を見下ろすと、晴明はいつになく真面目な表情で山姫をどきっとさせてさらに硬直させてしまった。
「私がそなたに言った言葉…覚えているか?」
「…あんたがあたしに?全然覚えてないね」
「妻にすると決めた。いや、ずっと前から決めていた。そなたとて私から逃げ切れるとは思っていまい。そろそろ諦めてもらおう」
「…あたしを手籠めにでもするつもりかい?精根吸い尽くしてもいいのなら考えてやってもいいよ」
「そうか、では近いうち夜這いをしに行く。その言葉、そなたこそ忘れるな。ふふふ、楽しい勝負となりそうだ」
晴明の作戦勝ち。
その知らせは百鬼たちを喜ばせて、また息吹が人の寿命で死ぬのではなく、同じように長く生きることができるとわかって狂喜乱舞させた。
だが件の雪男と、身体を休めなくてはならない息吹に会うことは適わず、いつものように毎日百鬼夜行に出なくてはならない。
その間は息吹は主さまの隣の部屋で眠り、その守りを晴明が固めた。
そして――
「晴明、これを息吹に飲ませてやりな」
「おお、すまぬ。だんだん顔色が良くなってきた」
数日を要して息吹の体調が回復してきたが、木花咲耶姫の生まれ変わりではあれど人としての身体の脆さはそのままの息吹はまだ歩けるような状態ではない。
あまり食べ物も口にしていないので、もっぱら晴明が調合した薬を溶かした薬湯を飲んではまた眠る日々を繰り返し、薬湯を運んできた山姫は晴明の隣に腰を下ろして息吹の頭を撫でた。
「大変だったんだね…。あたしはもう…この子が戻って来ないんじゃないかと思って胸が潰れる想いだったよ」
「私も実は駄目かと思ったが諦めるわけにはいかなかった。この子は私の愛娘で、今もそれに変わりない。だがまだ調べなければならぬことも沢山ある」
「そうだね…。あんたもよく頑張ったよ。あんたが倒れたら元も子もないんだからちゃんと休みな」
「そうだな。私が倒れた時はそなたに看病してもらおうか」
「ふん、絶対いやだからね。式神にでも世話してもらいな」
“この戦いが終わったらそなたを妻に迎える”
――晴明にそう断言された山姫はその言葉を意識してしまって腰を上げて部屋から出て行こうとする手を晴明がやんわりと握った。
固まってしまった山姫がかくかくとした動作で晴明を見下ろすと、晴明はいつになく真面目な表情で山姫をどきっとさせてさらに硬直させてしまった。
「私がそなたに言った言葉…覚えているか?」
「…あんたがあたしに?全然覚えてないね」
「妻にすると決めた。いや、ずっと前から決めていた。そなたとて私から逃げ切れるとは思っていまい。そろそろ諦めてもらおう」
「…あたしを手籠めにでもするつもりかい?精根吸い尽くしてもいいのなら考えてやってもいいよ」
「そうか、では近いうち夜這いをしに行く。その言葉、そなたこそ忘れるな。ふふふ、楽しい勝負となりそうだ」
晴明の作戦勝ち。