主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
百鬼夜行が行われないということもあり、たらふく酒を飲んだり踊ったり歌を唄ったりして百鬼が騒ぐ中、晴明が一際美しい舞いを披露した。
さすがの山姫もぽうっとなってしまい、主さまと息吹は一緒に鯛を突いて食べたりして皆が騒いでいる様子を楽しく見ていた。
…だが、途中から主さまが妙にそわそわしていて、息吹は主さまの口に煮た小豆をねじ込みながら顔を覗き込んだ。
「どうしたの?あ、厠?」
「…違う。なんだと思うか当ててみろ」
「厠じゃないんでしょ?うーん…あ、座り疲れたの?それとも酔ったの?」
「…食いたいものがある」
「?お料理沢山並んでるけど…この中にないの?」
どんちゃん騒ぎで互いの声が聴き取れないような状況の中、主さまは息吹に向けて上体を傾けると耳元でこそりと答えを教えた。
「!で、でも…みんな居るし…」
「術をかける。晴明にも破れないやつだ」
「…う、うん、じゃあ…」
一気に緊張してしまい、ずっと正座をしていたので脚が痺れていたせいもあってかよろよろしながら立ち上がった息吹の脇を支えた主さまは何食わぬ顔で自室の襖を開けて中へ入ると、山姫と談笑している晴明に見つかっていないことに安堵して襖を閉めて術をかけた。
「これでこの中の音も聴こえないし、中にも入れない」
「主さま…え、えっと…どうして床が敷いてあるの?」
「…準備していた」
「主さまの助平!」
「…なんとでも言え」
角隠しを取って息吹の髪を解いた主さまは、息吹と見つめ合った後ゆっくりと深い口づけを交わした。
主さまの唇には紅の痕が移り、まるで本当に食らわれたような気がして身震いしたが、それは恐怖からではない。
「ねえ主さま…くるくる回して」
「!わ、わかった」
言われるがままに帯を解いてくるくる回した主さまは、するすると脱いでゆく息吹から視線を逸らせずに片手で口元を押さえると、よろめいた。
「…上せそうだ」
「主さまが私を食べたいって言ったんでしょ?じゃあ私が主さまの着物を脱がせてあげる」
「やめろ!」
逃げる主さまを追いかけて背中に抱き着いた息吹は、細い背中に顔を埋めて回した腕にぎゅうっと力をこめた。
「主さま…ずっと一緒に居てね。赤ちゃんができたら一緒にお世話をしてね。ずっとだよ」
「…わかっている。お前こそ俺に毎日食らわれて音を上げるなよ。間違っても晴明に助けを求めるな」
「ふふ、うん」
――ゆっくりと床に身を横たえて、外部からの音も遮断した密室で2人、指を絡め合った。
…こんな風に、身も心もとろけるような夜を過ごす機会はしばらくないだろう。
それをわかっているからこそ、情熱は昂って迸る。
「お前をずっと愛している。永遠に俺に食らわれる女になれ」
「うん。主さま…私もずっと主さまを愛してるよ。ずっと」
一生この人に恋をしてゆくのだ。
何度も唇を重ね合った2人の行く末は――座敷童の予言通りとなった。
そして山姫と共に星空を見上げていた晴明は、主さまの部屋にちらりと視線を走らせるとふっと笑みを掃いた。
「十六夜の気まぐれは、気まぐれではなかったのかもしれぬな。あ奴の星回りからして決まっていた運命だったのかもしれぬ」
2つの星は共に巡り続ける。
悠久に。
永遠に。
【完】
さすがの山姫もぽうっとなってしまい、主さまと息吹は一緒に鯛を突いて食べたりして皆が騒いでいる様子を楽しく見ていた。
…だが、途中から主さまが妙にそわそわしていて、息吹は主さまの口に煮た小豆をねじ込みながら顔を覗き込んだ。
「どうしたの?あ、厠?」
「…違う。なんだと思うか当ててみろ」
「厠じゃないんでしょ?うーん…あ、座り疲れたの?それとも酔ったの?」
「…食いたいものがある」
「?お料理沢山並んでるけど…この中にないの?」
どんちゃん騒ぎで互いの声が聴き取れないような状況の中、主さまは息吹に向けて上体を傾けると耳元でこそりと答えを教えた。
「!で、でも…みんな居るし…」
「術をかける。晴明にも破れないやつだ」
「…う、うん、じゃあ…」
一気に緊張してしまい、ずっと正座をしていたので脚が痺れていたせいもあってかよろよろしながら立ち上がった息吹の脇を支えた主さまは何食わぬ顔で自室の襖を開けて中へ入ると、山姫と談笑している晴明に見つかっていないことに安堵して襖を閉めて術をかけた。
「これでこの中の音も聴こえないし、中にも入れない」
「主さま…え、えっと…どうして床が敷いてあるの?」
「…準備していた」
「主さまの助平!」
「…なんとでも言え」
角隠しを取って息吹の髪を解いた主さまは、息吹と見つめ合った後ゆっくりと深い口づけを交わした。
主さまの唇には紅の痕が移り、まるで本当に食らわれたような気がして身震いしたが、それは恐怖からではない。
「ねえ主さま…くるくる回して」
「!わ、わかった」
言われるがままに帯を解いてくるくる回した主さまは、するすると脱いでゆく息吹から視線を逸らせずに片手で口元を押さえると、よろめいた。
「…上せそうだ」
「主さまが私を食べたいって言ったんでしょ?じゃあ私が主さまの着物を脱がせてあげる」
「やめろ!」
逃げる主さまを追いかけて背中に抱き着いた息吹は、細い背中に顔を埋めて回した腕にぎゅうっと力をこめた。
「主さま…ずっと一緒に居てね。赤ちゃんができたら一緒にお世話をしてね。ずっとだよ」
「…わかっている。お前こそ俺に毎日食らわれて音を上げるなよ。間違っても晴明に助けを求めるな」
「ふふ、うん」
――ゆっくりと床に身を横たえて、外部からの音も遮断した密室で2人、指を絡め合った。
…こんな風に、身も心もとろけるような夜を過ごす機会はしばらくないだろう。
それをわかっているからこそ、情熱は昂って迸る。
「お前をずっと愛している。永遠に俺に食らわれる女になれ」
「うん。主さま…私もずっと主さまを愛してるよ。ずっと」
一生この人に恋をしてゆくのだ。
何度も唇を重ね合った2人の行く末は――座敷童の予言通りとなった。
そして山姫と共に星空を見上げていた晴明は、主さまの部屋にちらりと視線を走らせるとふっと笑みを掃いた。
「十六夜の気まぐれは、気まぐれではなかったのかもしれぬな。あ奴の星回りからして決まっていた運命だったのかもしれぬ」
2つの星は共に巡り続ける。
悠久に。
永遠に。
【完】