主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
息吹が風呂に入っている間、息吹と同じようにびしょ濡れ状態の主さまを見た晴明は屋敷へと上がらせると切り裂かれた右腕を見た。
「…牛車に乗っている間、お前に頼まれていた巻物も濡れてしまったことを責めていた。慰めてやれ」
「そんなことは大したことではない。大切なのは息吹が無事だったことだからな」
主さまが胸元から両腕を抜いて上半身はだけると、式神の童女が持ってきた煎じ薬を差し出されてそれを一気飲みし、薬草を腕にすり込まれた。
「つっ」
「河童にやられたと言ったな?そなたと言えど熱が出るぞ。息吹は数日屋敷に籠もらせる故、そなたもここには来なくていい。養生しておけ」
「…息吹が…」
包帯を巻いてもらい、式神に髪を拭いてもらいながら、主さまはぎゅっと瞳を閉じて、心情を吐露した。
「息吹が川に引きずり込まれた時…心臓が止まってしまいそうになった…」
「…そなたが居てくれたから、助かった。本当に感謝している」
――晴明はまるで息吹の本当の父のようで、今思えば息吹が10歳になるまでは自分もそんな気分で居たのだが、
今は違う。
息吹を傍に置いて、自分だけを見てほしい。
だがこの養父が首を縦に振るか…
「ふふふ、十六夜よ、懊悩しているな」
「…うるさい。これからも息吹は俺が守る。道長には息吹に手を出したら命を脅かしてやる、と言っておけ」
そのまま庭に下りて去って行ってしまった主さまを見送り、雨が降り出した空を見上げていると、湯上りの息吹が部屋に入って来た。
「よくあったまったかい?巻物のことは気にしなくていいよ、大したことじゃない」
上せそうなほどに浸かったのか、まだぼうっとしている息吹が隣に座り、晴明と膝が触れ合うほど正面に座ると晴明を驚かす一言を発した。
「父様…ぎゅってしてもいい?」
「なに?…一体どうしたんだい?」
ぎゅっと抱き着いてきた息吹の背中を撫でてやると、息吹は顔を上げずに訊ねた。
「十六夜さんって…どんな妖?」
「いい男だよ。かなり色男だが偏屈だから女が寄り付かないんだ」
――先ほどの2人の会話を聞いていたことは黙って、相槌を打った。
「…牛車に乗っている間、お前に頼まれていた巻物も濡れてしまったことを責めていた。慰めてやれ」
「そんなことは大したことではない。大切なのは息吹が無事だったことだからな」
主さまが胸元から両腕を抜いて上半身はだけると、式神の童女が持ってきた煎じ薬を差し出されてそれを一気飲みし、薬草を腕にすり込まれた。
「つっ」
「河童にやられたと言ったな?そなたと言えど熱が出るぞ。息吹は数日屋敷に籠もらせる故、そなたもここには来なくていい。養生しておけ」
「…息吹が…」
包帯を巻いてもらい、式神に髪を拭いてもらいながら、主さまはぎゅっと瞳を閉じて、心情を吐露した。
「息吹が川に引きずり込まれた時…心臓が止まってしまいそうになった…」
「…そなたが居てくれたから、助かった。本当に感謝している」
――晴明はまるで息吹の本当の父のようで、今思えば息吹が10歳になるまでは自分もそんな気分で居たのだが、
今は違う。
息吹を傍に置いて、自分だけを見てほしい。
だがこの養父が首を縦に振るか…
「ふふふ、十六夜よ、懊悩しているな」
「…うるさい。これからも息吹は俺が守る。道長には息吹に手を出したら命を脅かしてやる、と言っておけ」
そのまま庭に下りて去って行ってしまった主さまを見送り、雨が降り出した空を見上げていると、湯上りの息吹が部屋に入って来た。
「よくあったまったかい?巻物のことは気にしなくていいよ、大したことじゃない」
上せそうなほどに浸かったのか、まだぼうっとしている息吹が隣に座り、晴明と膝が触れ合うほど正面に座ると晴明を驚かす一言を発した。
「父様…ぎゅってしてもいい?」
「なに?…一体どうしたんだい?」
ぎゅっと抱き着いてきた息吹の背中を撫でてやると、息吹は顔を上げずに訊ねた。
「十六夜さんって…どんな妖?」
「いい男だよ。かなり色男だが偏屈だから女が寄り付かないんだ」
――先ほどの2人の会話を聞いていたことは黙って、相槌を打った。