主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
翌朝晴明に会うと、まず息吹が口にしたのは…
「父様おはようございます。あの…十六夜さんは?」
「十六夜?あれはしばらくここには来ないよ。ちょっと風邪をこじらせてるらしくてね」
「え…?もしかして…私のせい?」
――実際に主さまは熱を出して寝込んでいることを知っていた晴明は、巻物から視線を上げず、隣に座った息吹が膝に触れてようやく顔を上げた。
「あの…十六夜さんって…どこに住んでるの?私のせいで寝込んでるんだからお世話をしに…」
――内心晴明は吹き出しそうになっていたのだが、なるべく真面目そうな表情を作って、うーんと唸った。
「十六夜は照れ屋だし、それに世話をしてくれる者も居るからそなたが行かなくても大丈夫だよ」
「…一緒に住んでる人が居るの?男の人?それとも…」
やけに“十六夜”の情報を集めたがる息吹と主さまの距離が少しずつ縮まりつつあり、
だが“十六夜=主さま”ということにはまだ気付いていないようで、晴明は引き出しから和紙を取り出すと息吹に手渡した。
「これに文を書きなさい。私が式を飛ばして十六夜に届けてあげよう」
「!ありがとうございます!ちょっと待っててっ」
和紙を床に置いてうずくまりながら真剣に文章を考えている息吹は可愛らしく、からかい癖のある晴明は跳ねた髪を撫でてやりながら笑った。
「十六夜と何かあったのかい?…それとも何か言われたか?」
「いえ、何も。姿も見てないし…声を少し聞いただけ。優しそうな声で…」
――主さまを“優しい”だの言う者はなかなかに珍しい。
誰からも恐れられる百鬼夜行の王が気まぐれに手元に置いて育てた息吹が“十六夜”を気にかけていると主さまが知ったら、一体どんな反応をするだろうか?
「父様?何がおかしいの?」
「いや…、何でもないよ」
肩を揺らして笑っている晴明に息吹は首を傾げたが、なかなか良い文章が浮かんでこなくて、一旦筆を置いた。
「次はいつ十六夜さんに会えるの?」
「御所に行く時だろうね。それまでには完治させるように言っておくよ」
――息吹は口を開けば“十六夜”の情報を晴明にねだり続けた。
「父様おはようございます。あの…十六夜さんは?」
「十六夜?あれはしばらくここには来ないよ。ちょっと風邪をこじらせてるらしくてね」
「え…?もしかして…私のせい?」
――実際に主さまは熱を出して寝込んでいることを知っていた晴明は、巻物から視線を上げず、隣に座った息吹が膝に触れてようやく顔を上げた。
「あの…十六夜さんって…どこに住んでるの?私のせいで寝込んでるんだからお世話をしに…」
――内心晴明は吹き出しそうになっていたのだが、なるべく真面目そうな表情を作って、うーんと唸った。
「十六夜は照れ屋だし、それに世話をしてくれる者も居るからそなたが行かなくても大丈夫だよ」
「…一緒に住んでる人が居るの?男の人?それとも…」
やけに“十六夜”の情報を集めたがる息吹と主さまの距離が少しずつ縮まりつつあり、
だが“十六夜=主さま”ということにはまだ気付いていないようで、晴明は引き出しから和紙を取り出すと息吹に手渡した。
「これに文を書きなさい。私が式を飛ばして十六夜に届けてあげよう」
「!ありがとうございます!ちょっと待っててっ」
和紙を床に置いてうずくまりながら真剣に文章を考えている息吹は可愛らしく、からかい癖のある晴明は跳ねた髪を撫でてやりながら笑った。
「十六夜と何かあったのかい?…それとも何か言われたか?」
「いえ、何も。姿も見てないし…声を少し聞いただけ。優しそうな声で…」
――主さまを“優しい”だの言う者はなかなかに珍しい。
誰からも恐れられる百鬼夜行の王が気まぐれに手元に置いて育てた息吹が“十六夜”を気にかけていると主さまが知ったら、一体どんな反応をするだろうか?
「父様?何がおかしいの?」
「いや…、何でもないよ」
肩を揺らして笑っている晴明に息吹は首を傾げたが、なかなか良い文章が浮かんでこなくて、一旦筆を置いた。
「次はいつ十六夜さんに会えるの?」
「御所に行く時だろうね。それまでには完治させるように言っておくよ」
――息吹は口を開けば“十六夜”の情報を晴明にねだり続けた。