主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
結局数日熱が下がらず、せめて景色だけでもと思い、庭に通じる障子を開けて、小さな頃息吹が庭に植えた花々を眺めていた。
すると縁側に白い前脚がひょっこり現れて何かと思って見ていると、口に文のようなものをくわえた真っ白な猫が縁側に上り、
ぽとりと口からそれを落として、すっと居なくなった。
「晴明か。………息吹?」
息吹がつけている香の香りがして、人目を盗みながら縁側に出ると文を拾い上げて寝室に戻り、少し胸を高鳴らせながら広げてみると…
“十六夜さんの熱が早く下がるように毎日お祈りしています。十六夜さんとまたお話がしたいです。治ったらすぐに会いに来てね”
――“十六夜”はやけに好かれているらしく、つい笑みが込み上げてきて、寝転がりながら何度も文を読み返す。
「山姫!」
「はいはい、何ですか?」
枕の下に文を隠すと、顔を出した山姫に対して微笑を向けて、何故主さまに微笑されたかわからない山姫は、普通ならその笑みに見惚れてぽうっとなるところが顔をしかめて後ずさりをした。
「主さま…顔が気持ち悪いですよ?」
「晴明が寄越した薬を持って来い。今日中に完治させる」
「まあまあ…そんなに息吹に会いたいんですか?早くここに連れ帰って下さいよ。あの子と早く話がしたいですよ」
「…少し待て、必ず連れ帰る」
恐らくわざといつも以上に苦くしてある薬を水で流し込んで寝転がると山姫が気を利かせて居なくなる。
それから主さまは昏々と眠り続けた。
――晴明の屋敷では、帝の熱が下がったとのことで早速息吹に召集がかかっていた。
「父様…私…行きたくないの。駄目?」
「では明日まで我慢してほしい。しかし…そんなにいやかい?」
「私…あの方が好きじゃないんです。私は…」
「十六夜が気になる、かい?」
図星を突かれて顔を赤くした息吹を見た晴明は、手にしていた巻物を落としながら大仰に驚いて見せた。
「息吹…十六夜は妖だよ?」
「でも…気になるの。父様、十六夜さんとお話をする機会を下さい」
切実な瞳で見上げて来る息吹にまた困り顔を作って見せた。
「十六夜に聞いてみよう」
すると縁側に白い前脚がひょっこり現れて何かと思って見ていると、口に文のようなものをくわえた真っ白な猫が縁側に上り、
ぽとりと口からそれを落として、すっと居なくなった。
「晴明か。………息吹?」
息吹がつけている香の香りがして、人目を盗みながら縁側に出ると文を拾い上げて寝室に戻り、少し胸を高鳴らせながら広げてみると…
“十六夜さんの熱が早く下がるように毎日お祈りしています。十六夜さんとまたお話がしたいです。治ったらすぐに会いに来てね”
――“十六夜”はやけに好かれているらしく、つい笑みが込み上げてきて、寝転がりながら何度も文を読み返す。
「山姫!」
「はいはい、何ですか?」
枕の下に文を隠すと、顔を出した山姫に対して微笑を向けて、何故主さまに微笑されたかわからない山姫は、普通ならその笑みに見惚れてぽうっとなるところが顔をしかめて後ずさりをした。
「主さま…顔が気持ち悪いですよ?」
「晴明が寄越した薬を持って来い。今日中に完治させる」
「まあまあ…そんなに息吹に会いたいんですか?早くここに連れ帰って下さいよ。あの子と早く話がしたいですよ」
「…少し待て、必ず連れ帰る」
恐らくわざといつも以上に苦くしてある薬を水で流し込んで寝転がると山姫が気を利かせて居なくなる。
それから主さまは昏々と眠り続けた。
――晴明の屋敷では、帝の熱が下がったとのことで早速息吹に召集がかかっていた。
「父様…私…行きたくないの。駄目?」
「では明日まで我慢してほしい。しかし…そんなにいやかい?」
「私…あの方が好きじゃないんです。私は…」
「十六夜が気になる、かい?」
図星を突かれて顔を赤くした息吹を見た晴明は、手にしていた巻物を落としながら大仰に驚いて見せた。
「息吹…十六夜は妖だよ?」
「でも…気になるの。父様、十六夜さんとお話をする機会を下さい」
切実な瞳で見上げて来る息吹にまた困り顔を作って見せた。
「十六夜に聞いてみよう」