主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
「息吹、時間だよ」
晴明から声をかけられると、手を握ってくれた妖はもう姿を消していた。
「十六夜さん…御所について来てくれるでしょ?」
ちりん。
鈴の音がして『是』とわかると、待ってくれていた晴明に手を引かれて庭に下りた。
扉の前にはすでに牛車が止まっていて、その前には道長の姿があり、久々の息吹に会えて笑顔を爆発させた。
「い、息吹、元気にしていたか?」
「はい。でも私…御所に行きたくないから、またこの屋敷でお会いしてくださいね」
「もちろんだとも!俺も…その方がいいし…」
照れながら道長がぼそぼそと呟き、急に強風が吹いて道長の烏帽子が吹き飛ばされた。
「もうっ、十六夜さんったら」
窘めるふりをしながら息吹も喜んでいる風で、晴明が肩を竦めながら息吹と共に牛車へ乗り込む。
「とにかく帝から何を言われても主張を通しなさい。父様が必ず願いを叶えてあげるからね」
「でも…父様の立場が…」
「宮仕えは元々いつか辞めようとは思っていたのだ。今辞めたとて問題ない」
「はい。十六夜さんも傍に居てくれるから大丈夫」
――全幅の信頼に主さまの顔が熱くなって手で風を仰ぎ、その姿がばっちり見えている晴明は吹き出さないように袖で口元を覆うと顔を真っ赤にして笑っていた。
「…笑うな」
「いや、すまぬ。ちなみに御所通いが無事に終われば十六夜とも会えなくなるが、いいのかい?」
「え?そうなの!?」
驚いて立ち上がろうとした息吹が牛車の天井に頭をぶつけて顔をしかめると、またそれが初耳の主さまも目を見張って晴明を見据えた。
素知らぬ顔をした晴明は扇子で膝を叩きながら困り果てた表情を作り、不安を呷る。
「一応十六夜とはそういう契約だからね。もうそなたを守らなくとも良くなるだろう?」
「それは…そうだけど…会えなくなるの…?」
本当に悲しそうな顔をして俯いた息吹にきゅんとして、“十六夜”として傍に居れるのならそれでも構わないと思った主さまは晴明に耳打ちをした。
「…契約の延長を」
「ふふ、わかった」
思い通り。
晴明から声をかけられると、手を握ってくれた妖はもう姿を消していた。
「十六夜さん…御所について来てくれるでしょ?」
ちりん。
鈴の音がして『是』とわかると、待ってくれていた晴明に手を引かれて庭に下りた。
扉の前にはすでに牛車が止まっていて、その前には道長の姿があり、久々の息吹に会えて笑顔を爆発させた。
「い、息吹、元気にしていたか?」
「はい。でも私…御所に行きたくないから、またこの屋敷でお会いしてくださいね」
「もちろんだとも!俺も…その方がいいし…」
照れながら道長がぼそぼそと呟き、急に強風が吹いて道長の烏帽子が吹き飛ばされた。
「もうっ、十六夜さんったら」
窘めるふりをしながら息吹も喜んでいる風で、晴明が肩を竦めながら息吹と共に牛車へ乗り込む。
「とにかく帝から何を言われても主張を通しなさい。父様が必ず願いを叶えてあげるからね」
「でも…父様の立場が…」
「宮仕えは元々いつか辞めようとは思っていたのだ。今辞めたとて問題ない」
「はい。十六夜さんも傍に居てくれるから大丈夫」
――全幅の信頼に主さまの顔が熱くなって手で風を仰ぎ、その姿がばっちり見えている晴明は吹き出さないように袖で口元を覆うと顔を真っ赤にして笑っていた。
「…笑うな」
「いや、すまぬ。ちなみに御所通いが無事に終われば十六夜とも会えなくなるが、いいのかい?」
「え?そうなの!?」
驚いて立ち上がろうとした息吹が牛車の天井に頭をぶつけて顔をしかめると、またそれが初耳の主さまも目を見張って晴明を見据えた。
素知らぬ顔をした晴明は扇子で膝を叩きながら困り果てた表情を作り、不安を呷る。
「一応十六夜とはそういう契約だからね。もうそなたを守らなくとも良くなるだろう?」
「それは…そうだけど…会えなくなるの…?」
本当に悲しそうな顔をして俯いた息吹にきゅんとして、“十六夜”として傍に居れるのならそれでも構わないと思った主さまは晴明に耳打ちをした。
「…契約の延長を」
「ふふ、わかった」
思い通り。