主さまの気まぐれ-百鬼夜行の王-【完】
夕刻前主さまが戻り早々に皆を集めるように山姫に頼み、そして間もなく百鬼たちが集結して主さまの言葉を待っていた。


「帝が息吹を中宮に迎えようとしている」


「え!?主さま、そんなのいやですよ!なんとかしてくださいまし!」


途端轟々と皆が叫び出し、主さまが人差し指を立てるとぴたりと止み、そして麗しの美貌が笑んで、少ない女の妖が皆ぽうっとなった。


「もちろん阻止してやるとも。…今夜百鬼夜行を率いて帝を脅かしに行く。ついて来たい奴は、ついて来い」


「おお!みんな、息吹を守りに行こう!息吹を取り戻そう!


その場に居た百鬼全員が賛同し、今にも飛び出さんばかりの勢いだったので、主さまは晴明から言い渡されたいくつかの条件を皆に言い聞かせた。


「それは助かるが、脅かすだけでいい。人は殺すな。殺すと俺自らが命を奪ってやる。誓え」


「主さま、俺たちはそんなことしませんよ。大暴れしようぜ!」


息吹を可愛がっていた妖たちは未だにあの小さな息吹しか想像できていないのだろうが、

一目見せてやりたいと思いながら未だ正体を明かせていない主さまががりがりと髪をかきあげると、山姫が酒を運んできて縁側に座っている主さまの隣に腰かけて、ため息をついた。


「どうした」


「主さま…息吹はいつになったらここに戻って来るんですか?その時は、主さまとの祝言の時ですよね?」


「…なに?今…なんと言った?」


「だから…祝言ですよ。主さまもそのつもりだったんじゃないんですか?」


心外だと言わんばかりの山姫の表情に、主さまは…みるみる顔色が赤くなっていった。


「ぬ、主さま?」


「ふ、ふざけるな!人間の女など妻に娶れるものか!必ず俺より先に死んでしまうんだぞ。…無理だ」


「…そうですね。すいません、変なことを言いました」


――息吹を妻に?


とにかくまた手元に置きたい。

そうは思っていたが、息吹を妻に?


…はっきり言って、そこまでは頭が回っていなかった主さまは百鬼夜行に出るまでの間、そのことで頭がいっぱいになってしまった。


「…すぐ死ぬんだぞ」


俺を置いて、先に――
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