他人任せのジュークボックス
「ああああぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 少女は絶叫した。

「な、なんてことしてくれんのよぉぉぉ!」

 なぜならば大切な大切なケータイを目の前の男子に踏んづけられたからだ。

「ご、ごめんってば」

「ごめんで済めば消費税なんて50%くらい一気に引き上げられるわ!」

 意味不明なキレっぷりを見せる彼女だがそもそも、よそ見をしていて彼にぶつかってケータイ落として何事かと振り返った彼がものの見事にそれを踏みつけてしまったという流れから考えると非常に、大いに、贔屓目にみた上で客観的どころか主観的にみたって彼女が原因なわけなのだけれども。

「どーしてくれんの!」

 いかんせん若かった。

 己を省みるとかそういうことが出来るほど、中身というか脳みそというか“おつむ”とかが若かったのだ。

 だから少女は目の前の男子に、哀しみを怒りにすりかえて叩きつけることでしか気を晴らすことが出来なかったのだ。

 そう、なぜなら、

「“正面”から踏み潰したんなら中のカードとかなんとか無事だったかもしれないのに! アドレスとか着歌とかどうしてくれんのよ!!」

 なるほど。

 彼女の理不尽極まりない八つ当たりもジョシコーセーからしてみれば少なくとも、明日返ってくるテストの点数よりは遥かに、一等大事なことゆえなのだろう。

 確かに無残な姿のその携帯を見れば彼女の絶望も頷ける。

「“真横”からとか、信じらんない!!」

 そう、見事に“ながひょろ”になったそれからあれやこれやと溜めに溜め込んだそれやどれやなデータが救い出せるとは、到底思えない状況。

 少年は考える。

 確かに“実行犯”は自分かもしれない。

 しかしながら理不尽な感はやはり拭えない。

 ならばここは気の利いたことでもいって場を和ませなんとかうやむやに出来やしないだろうかと。

 携帯を見つめる。

 そして意を決した。

「で、でも、ほら、さ。これってあれじゃない? “ながひょろ”なだけにさ……」

「は?」

「細身なケータイ──スマートフォン……なんちゃって」

「ふっざけんなぁぁぁぁぁ!!」

 やはり少年もまた、乙女の怒りを逆さ撫でるしか出来ない程度の“おつむ”の若さのようだった。

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