絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「いやいやそんな話ちゃうねん。ちゃんとおめかしして、そんで店予約して、頑張って行って来なさい」
「別に(笑)。仕事の服でもいいんじゃない?」
「いや、あれは目立つから。まあ、横におる人の方が目立つやろうけど」
「その席のことは相談してみる。VIPじゃないと座れないってゆーんなら自分で予約すればいいしさ。……マクドのVIPなら多分厨房の中くらいだよね(笑)。作った料理をいち早く食べられる」
「モスならテラスやで(笑)。まあ、それがマクドとモスの差かな(笑)」
 よくもそれだけだらだらと喋っておいて、結局分かったのは、レイジは和食が好きだということくらいだった。全くユーリと喋っていると時間が経つのが早い。
 翌日、高級な流行に敏感な玉越に適当な店を聞いて、予約状況を確認して、それからレイジの携帯に電話をかけた。VIPの席がどうとか関係なく、普通席の予約状況のことである。
 もちろん番号通知でかける。だが、知らない番号のためか、出なかった。いや、知らない番号でも多分取るだろう。単なる仕事中か。念のため、もう一度長くコールを鳴らすと今度は留守電に自動で切り替わったので、「香月です。また電話ください」とだけ簡単に吹き込んだ。
 30分ほどしてから携帯が制服のポケットの中で震えた。
 仕事中であったが、こっそり出る。
「もしもし、ちょっと待って」
 すぐに走って2階に上がる廊下まで行く。
「ごめん!!」
「ビックリしたよ」
 彼は笑っている。
「今度は何があったんだろうって。で、どうしたの? 何かあった?」
 そこまで言われて気づく。前回の井野の事件のことを言っているのだ。
「あぁ……。いえ、急ぎではないんですけど。あの、お誕生日おめでとうございました」
「え?」
 軽く笑っている。
「それで、だいぶ日がすぎたんですけど、プレゼントの食事を……」
 あ、忘れているかもしれない、と思う。
「あぁ」
 もういいよ、とか言わないかな……。
「やっとだね」
「す、すみません……。いやなんか毎夜忙しそうだったので……」
「確かにそうだけど。結構待ってたよ」
「はっ……あぁ、すみません……」
「いいよ。で、いつ? どこにする?」
「日にちは大体大丈夫なんですけど。場所は櫓っていう……」
「大通りの創作料理の店ね」
 さすがグルメな芸能人。
「あっ、多分……いえなんか、そこが最近有名ということで、私も行ったことはないんですけど、なんか、いい感じかなあと……」
「うん、いいよ。日にちは夜ならいつでもいい」
「えーっとまあ、私もいつでもいいんですけど……」
「休みの前日がいいんじゃない?」
「そう……ですね。じゃぁ、明日……休みなので……」
「今日? いいねー。僕はかなりオッケーだよ」
 かなりオッケーってつまり今日行こうってことか……。
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