絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「あ、あのそれで……。あの、私だったら普通の席しか予約できないんですけど」
「何?」
「なんか、多分、VIPルームとかそういう席じゃないとダメかなぁと思ったり……」
「ダメじゃないけど。けどあそこは奥に個室があるから。そこ押さえとくよ」
「え? あ、それが今お店に電話したら個室は空いてないって……」
「大丈夫。オーナーが知り合いだからなんとかさせる」
「あっ、はいっ。えーっと……」
 ってなんかすごい力を発揮させようとしてるな、この人……。
「私、今日7時までなので……1回帰って9時には、いえ、頑張ったら8時でも大丈夫です」
「僕は9時の方がいいな」
「あ、はいでは、9時ということで。9時なら大丈夫です。帰って着替えても時間があると思います」
「うん。じゃあ、迎えに行くよ」
「え? あ、そうですか?」
「うん。自転車でこられても危ないしね」
「自転車ではいきません」
 レイジの笑いを少し怒って制す。
「えっと。あの、ユーリさんとか……」
「何?」
「呼びましょうか?」
「誕生日プレゼントでしょ?」
「え、はい」
「2人きりでいいじゃん」
「……」
 どうせユーリは1抜けだしね……。
「それから船酔いする方?」
「船酔い?……はしませんけど……」
「なら良かった。9時には家に迎えに行く」
「あ、はい。分かりました。了解です」
 トランシーバーをしているせいでつい「了解」と言ってしまった。
 しかし、今日突然レイジと2人で食事か……。
 会話に夢中で内容が半分も想像できていなかった。
 誕生日の食事会。プレゼントなしって……大丈夫かなぁ。
 それから7時まで食事の他に何かプレゼントをと考えに考えたが、何も思いつかなかったので、後日でもいいかと諦めた。諦めはいい方がいい。
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