絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
店内に入るなり早速若い女の子にレイジの存在を気づかれたようで、なんかもうどんな顔してその後ろを歩けばいいのか分からなかった。
 個室を取ってあって正解だ。というか、少し変装とかしろよ! そんなサングラスなんて逆にバレるし、テレビ通りじゃん……。
 部屋に入るなりすぐに食事が全て運ばれて安心する。
「あれ、オーダーしておいてくれたの?」
「それが目的ですから」
「これ……高いでしょう?」
 まあ、一人25000円ですけど。だって、なんかそれくらいしなきゃいけないんじゃないかとか思ったんだもん。
「誕生日だし!」
 というか、まあ自分も食べてみたいと思わないでもないし。
「ほんと、ありがとう」
 そして雑誌のほほ笑みだ。……そういえば、久しぶりにまじまじと顔を見た気がする。
 それに、真正面に対面してちゃんと食事するなど、一緒に暮らしはじめてから一度もない。
「あ、お酒飲みます?」
「うん、そうだね。日本酒くらい飲もうかな」
 香月は手元にあったメニューを渡す。
「愛ちゃんは?」
「いいです」
「飲まないの?」
「うーん……今はいりません。ご飯食べてる時は」
「じゃあ、僕のだけ頼むね」
 日本酒が来るのを待ちきれず、食前酒で「レイジさんの誕生日に」乾杯をして食事に入った。
「これ……何でしょう?」
 香月はところ狭しと並べられた皿の中の、煮魚の隣にある黄色い物体に箸を伸ばして聞く。
「あ、それメロンだよ」
「魚と醤油に?」
「うん。僕はあんまり合わない気がするけど(笑)」
「……。確かに。これ、メロンと醤油を合わせたらプリンの味がするとかいうそういう仕掛けなんですかねぇ……」
「プリンの味なんてしないし! しかも、プリンの味がしても魚には関係ないから違うでしょ」
「じゃあ、プリン風味のドレッシングのつもりかなぁ」
「そっちの方が近いかもね」
 冗談半分のつもりだったが、レイジは優しく同意してくれる。
「……これはなんだろう。ゼリー?」
「マグロだよ(笑)」
「………ほんとだ(笑)。この前テレビで、ゼラチンとトマトジュースでマグロができるってやってたんですよ!」
「でもそれはトマトジュースしか入れてないからトマトの味でしょ?」
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