絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「まいっか……。食事終わったらね、船乗りに行こうか」
「……ふね?」
 香月はデザートのスダチシャーベットにスプーンを入れながら聞いた。
「クルーザー。夜景でも、どうかな」
 レイジはいつも通り微笑かけるが。いや、確かに行ってもいいけど……。明日休みだし。
「あ、私は別に……」
「決まり。行こう」
 言い終わるなり、箸を置く。
「え、帰るんですか?」
 食事は香月は完全に終わっていた。レイジはシャーベットがまだ残っているが、もしかしたら甘い物が嫌いなのかもしれない。
「うん」
 わりと飲んだはずなのに彼はさっと立ち上がる。
 そしてまた例の車で30分移動して、今度は船場に着いた。マリーナにこんな時間に停泊しているのは、もちろんこの一台しかない。
「すごい。これ、レイジさんのですか?」
「もち」
「すっごーい」
 普通に船だった。クルーザーというので小さい漁船を予想していたが、全く予想は外れ、お金持ちが夏休みに遊ぶような大きな白い船だった。定員人数も値段も全く想像できないが、とにかく、お金が有り余っていることだけは確からしい。
「おいで。中行こう」
 まあ、中から外を見ると普通の海なのだが。
 豪華な船に乗る。その意味は最初に停泊している船を見ることに意義があると実感した瞬間だった。
 誰が操作しているのか、船はゆっくりと動き出す。
 その先端で、香月の側でレイジはぴったりとくっついて離れようとはしない。
「……よく来るんですか?」
「夏はね。皆で乗るよ」
「冬……もし、雪が見れたらいいでしょうね。寒いか(笑)」
「見ようか……」
「え!?」
 まさか紙吹雪の用意があるとでも言うのか!? 奴ならやりかねない。
 もしやると言い出したら、海が汚れると言って止めよう。

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