絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「今年の冬、一緒に」
「あぁ、はい」
 普通の返答に、笑顔で応える。
 夜景はゆっくりと映し出される。海面に映ったその光も、また、よい具合であった。しまった、酒を飲んでおくべきだった。その方が幾倍も綺麗だったはずである。レイジ相手だとつい身構えてしまって、ゆっくりできないのが難点だ。
「え」
 タイタニック号ではないことに若干安心したが、それでも実に格好はそれに近い。
 レイジは腕を回すと背後から抱きしめてきた。
「僕の気持ちに、気づいてない?」
「きも、ち……?」
「うん」
「……」
 気持ち……?
 レイジが何も喋らないので沈黙のままだった。だがしかし、何か考えようとは思わなかった。船が静かに動いていたし、波の音も静かだったし。
 考えても分からないと、最初からそう思った。
「何も、知らなかった?」
「え……」
 いつもと違う。思考が進まないのは、いつもと違うレイジにちゃんと気づいているから。
 様子が違う。
 肌への密着がより濃い。
 視線が優しい。
 冗談ではない。
 違うのだ、言葉の一つ一つが冗談ではない。
 彼はまたするっと姿勢を変えると、腕で体を抱きしめたまま、見つめてくる。
「僕が……好きだってこと」
「……」
 視線が泳ぐ。
 今のこの数分。彼が何を言おうとしていたかなんとなくわかってはいたが、いざ言われると返答に困った。
「そんな……困った顔しないで」
 俯いた顎を持って、クイと顔を上げさせる。
「そんな困るような質問?」
「……とつ、ぜん……」
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