絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 視線だけ伏せる。
「こっち見て」
「……」
 観念してじっと見つめて言葉を返す。
「とつぜん……です」
「もっと独占していたいんだ。いつも僕がいない間、ユーリと同じ家で寝ていると思うと、それだけでイライラして仕事にならなかったんだよ、ホント」
 空いた片手で顔にかかった前髪をかきあげてくれる。
「誰にも……触れさせたくない」
 顎の手をゆっくり離すと、今度は強く抱きしめられた。
 堅い、胸板。
「僕だけが、触れていいようにしたい。いいよね?」
「え……あ……の……」
「困る?」
 彼の胸で彼に頭を撫でられ、彼に好きだと攻められながらも、適当な言葉は何も浮かばない。
「と、突然で……」
「考える時間が欲しい?」
「……うーん……」
 考えて本当に答えが出るのか怪しくなってくる。
「どうして、私?」
 突然思いついたので、聞いてみる。
「最初に見たときから可愛いとは思っていたよ。でも年が若いしね。一回り違うし。だけど、一緒に住んでくれて。もし僕がいない間にユーリと一緒に寝ているかもしれないと思ったらね……耐えられなくてね。そのあたりからかな……。自分の気持ちをきちんと伝えておこうって」
「どこがいいと思ったんですか?」
「正直、第一印象として、外見が好みだったよ。モテるでしょ?」
「モテません」
「そういうところも好き」
 不意にまた強く抱きしめられて、照れる。
「真っ直ぐで、すれてない。ちゃんとしてる。そういうところ。すれ違ったら、振り返りたくなるような、そんな魅力。そういうところ」
「よく……分かりません」
「そういうところ。だけど、一緒に住んでるし。多分嫌われてはいないかなって」
「それは……ユーリさんとは仲良かったし、会社も近いし……」
 相手が正直に話してくれるのなら、こちらも話した方がいいと、素直な言葉を選ぶ。
「あそう……。じゃあ今からキスするから、拒否してみて」
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