絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「あれ!? そうなんですか! 何も言わないから全然知らなかった……」
 これでは確実に話がずれると、すぐに戻しておく。
「というか、今まであんまりレイジさんと話しができてないからかもしれないですね」
「そうかもしれないね。まだテレビの中って感じなんだ……こんなに近くにいるのに」
 すっと手が伸びてきて、また髪の毛を触る。
 髪の毛を撫でられ、自然に目を閉じる。これで飲んでいれば、確実に意識を失えただろう。そして、朝になって全て忘れたことにしたい。
「眠い?」
「……大丈夫」
 目を開ける。残念なことに今日は飲んでいないし、忘れたことにもできない。
「まさかとは思うけど、彼氏いないよね?」
「これでいたらすごいですよ(笑)」
「恋愛はしばらくしてない?」
「わたし……」
 どう説明しようか、しばしの沈黙になる。
「僕はね……」
 聞いてもいないのに、先にレイジは話始めた。
「僕はね、まあ、学生の頃は遊んでたよ。この業界にも入ってたし、出会いもあるし。今考えるとモテたんだろうねぇ、相手もいたし。で、この前の、彼女は2年くらい続いてたよ。わりと本気だったからね」
「へえー!」
 思いがけぬ大恋愛の終止符を見てしまったことに、今さら驚く。
「それにしても、立ち直りが早かったですね」
 相手を睨むほど見つめて言った。
「うんだって、つけ入るスキがなかったしね。完全に僕の惨敗だから、だから、彼女から電話がかかってきても出なかったんだろうな」
「……そうですか……」
 それ以外の言葉は浮かばない。
「はい、交代」
「私? ……私は……」
「委員長とかしてそう(笑)」
 まあ、いいかと思って話す。
「私は今まで一人だけ付き合った人がいます。きちんと付き合ったのは、その人だけです」

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