絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「うん」
 もっと、具体的に話してもいい相手だと思った。なのに、口から言葉が出なくて、しばらく沈黙になってしまう。
「……けど、結局別れました。でも私、それはそれで仕方ないというか、それが私なりの恋愛だったと思っているんです」
「どんな?」
「……もう、忘れましたけど」
「楽しかった?」
「多分……。でも、本気で楽しかったら、本気で辛い。それが嫌でした」
「それが恋愛じゃない?」
 レイジの視線を強く感じたが、香月はまっすぐ天井を見ながら答えた。
「……そうですかね……」
「辛いことがあった?」
「いいえ。何も」
 香月の視線は揺るがない。
「愛する、ということをちゃんと知った方がいい」
「知ったって、どうせ終わるなら、知らない方がマシです」
 つい早口で、攻撃的に彼の目を見据える。
「終わるくらいなら始まらない方がいい」
 さらに付け足した。
「それは違う。例え終わっても、次の出会いのときには必ず成長している」
「それは、もし、私と付き合って、終わったときのことを想定しているということですか?」
「そうじゃない。どんな始まりがあったって、どんな愛があったって、確かに終わるときは終わる。だけど、それでも良かったと思える物が必ずあるから」
「では、優さんを愛して、何が残りましたか?」
 早口で切り返した。
「僕は一人の女性を愛するということを学んだよ。大切にするということを知った。今までの自分の恋愛がいかにダメだったかというのを思い知ったよ。
 確かに、優の対応はあんまりだったと思う。だけど、いつか優も気づくよ。そしてそれをバネにしていくと思う」
「……いやです私。そんなのは嫌。多分、私はきっと、本気で恋愛をしたら、自分を見失う」
 香月は宙を見つめて睨んだ。
「僕が教えてあげる。いい方向を……必ず」
 言葉には力がこもっていて、信じそうになってしまう。

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