絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……私、一つ気になるんですけど」
「何?」
「レイジさんはこう……私が簡単になびかないのが面白いんじゃないですかね」
「そんな若い考えもうしてないと思うよ(笑)」
「そうかなあ」
「そんなん若いうちしか考えへんよ」
「じゃあ、年取るとどんな考えになるの?」
「やっぱ、深く愛し合いたいとか……。遊んだって何も残らんしね。全然つまらんのよ。それなら例え傷ついても、好きな人を愛してる方がいい」
「……そうかなあ」
「そうそう(笑)」
「さすが遊び人は語る、だね」
「まあ、若い頃は遊んだりもしたさ。それなりにね」
 そんなタマじゃないくせに、と、目を伏せたふりをして笑う。
「……レイジさん、毎日帰って来てって言ったら、帰ってきてくれますかね?」
「仕事以外は大丈夫よ。今はただ単に飲み歩いてるけど、帰る場所ができたら違うよ」
「……」
 香月は視線を落として考える。
「よーに話し合い? 毎日帰ってきてくれるん? とか、浮気せーへんのーとか。浮気したら、別れるよーとか」
「……うーん、ピンとこないなあ……」
「大丈夫、大丈夫(笑)」
 何が大丈夫だ……。
 香月はそのまま後ろに倒れた。ベッドはふかふかで、変な皮脂のにおいがするが、今はそんなことを口に出す余裕もないし、ユーリもまたディスプレイの方を向いた。
 なんか、面倒なことになってきたな……もういっそのこと、ここを出ていこうか。でも、本当にここを出ていくことになったらどこに行こう……。アテはない。今さら実家に戻って、継母のことでうんざりしたくもない。
 ここに来て、初めて自分が継母のことが負担になっていることにようやく気付いた。こちらを気にかけているつもりなのか、なんだかんだと話しかけてくるのはいいが、だらしない恰好で、甘ったるい声を出されても、ため息が出るだけなのである。それに堕ちた自分の父親を情けなく思い、余計気が滅入る。
 今の継母がいない生活が、予想以上に気楽なのであった。
 残るは、一人暮らし……。自分で掃除をして、洗濯をして……。
 無理だな。
「どわっ!!」
 また意味もなく、髪の毛サラサラのお兄さんはこちらを振り返って驚く。
「なにー?」
「目開いてるからビックリしてん。寝てんのかと思ってたから」
「起きてるよ」
「さっきなんて? 何か言わへんかった?」
「あー、一人暮らしは嫌だなあって」
「あれ? レイと2人暮らしする気満々だったやん」
「どこがー!? そんなこと言ってないじゃん。聞き間違いか、空耳か、幻聴」
「俺も天使の声が聞こえるようになってきたかなー」
 コンコン。
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