絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
「……そう……」
 どこというわけでもなく、レイジは宙を見つめた。
「あの……。私はレイジさんみたいな人とは、そう簡単にお付き合いできません」
「どのあたりが?」
 というか、先に服を着るよう文句を言えばよかった。髪の毛から雫が滴ってタオルにポトポト落ちてるし。
「芸能人だし。もっと素敵な人が近くにいるじゃないですか」
「誰のこと?」
「他の芸能人の人のことです」
「それは僕が決めること」
 レイジは、あえて距離をとってあった香月を強引に引き寄せた。
「な、んですか!?」
「んー……いい匂い」
 首筋に鼻を擦り付けてくる。
「ちょっ……と」
 無理矢理引き剥がす。半分はユーリの視線が気になった。画面越しにこちらを見ている気がする。
「私は……」
「うん。テレビの中の『レイジ』の彼女になるっていう、そういう自信ができたわけじゃないんでしょ?」
 少し言い方を変えられて、納得してしまう自分が悔しい。
「……」
「いいよ、ゆっくりで。僕も焦るつもりはない」
 嘘つけー。
「できれば、ルームシェアを解消して、自宅で一緒に暮らしたい。けど、ユーリが監視してくれてるなら、逆に今の方が安全かもね……」
「私は今のままいがいいです。だから、レイジさんもそのまま同じ所にいてください」
「……悲しいお願いだなぁ」
 やっと腕をはずされて、安心する。
「時々、アイドルが結婚した時さ。アイドルの僕が結婚したんじゃなくて、素の僕が結婚したんですって言う人いるじゃない?」
「はい」
 ゆっくり手をとられて、見つめられる。
「僕はそうは思わないから。僕は僕、1人なんだ。だから、僕の仕事をまだ理解できないんなら、序所にしてくれればいいし」
 見るとユーリが密かに頷いている。やはり、ちゃっかり聞いているのだ。
 香月は、視線を逸らしてため息をついた。
「そのうち……」
「ん?」
< 131 / 314 >

この作品をシェア

pagetop