絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 これからよろしくするかどうか決まったわけではないが、拒むこともできない。
「とりあえず部屋案内するから」
 ユーリも、ご機嫌だ。
 ユーリには簡単に笑顔になれるが、相手がスターともなると、緊張してしまう。レイジよりちょっとバックにいるという理由だけで、ユーリがものすごく身近に思えてくる。
「あの……」
 ようやく、握手の手を離すことができる。
「レイジさんってあの、歌手……ですよね?」
 ユーリが言っていることに疑いを持っていたわけではないが、それしか言葉が思い浮かばなかった。
「あ、知ってるんだ(笑)」
 レイジは柔らかく笑いながら謙虚に応じた。テレビで彼が笑うところを見たことがなかった香月にとって、それは衝撃的な出来事であった。
「テレビで……見たことあります」
「うれしいな。
 今日は仕事の後なのに来てくれてありがとう」
 いやまさか……、ブラウン管ではなく、液晶の向こうではクールに決めきっているレイジがまさかにっこりと笑ってみせてくれるなんて。やっぱプライベートは違うなあ、と芸能界という場所を初めて知る。
「で、部屋なんやけどね、こっち」
 ユーリについてリビングを出る。廊下を跨ぐと今度は個室が並び、その一室を開けてくれた。
「前住んでた人の部屋をこうしたから」
 はあー、というか、
「すごい綺麗」
「前キラキラの髪留めしてたやん? だからこういうの好きかなあと思って」
 まず目に入ったのは、白地に柔らかいバラの刺繍が入った大きなカーテン。続いてクリスタル使いのシャンデリア、さらにカーテンと揃いのベッドカバーとソファとすべてが可愛らしい柔らかなバラ柄でトータルコーディネイトされている。
「すごいすごい! かわいー、きれぇ……」
「お風呂とかはあっちね。共同」
「共同!?」
「3人で使うって意味」
「あぁ……3人でね。なるほど、なるほど……。えーと」
 つまり、そのつまり。どういうことなんだろう。
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