絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ 
 午後2時。落ち着いてきたし、そろそろ昼でも、とスタッフルームに入り、一旦停止。
「お疲れ様でーす」
 すれ違う従業員の声でハッとするくらい、その光景に、自分でも信じられないくらい見入ってしまった。
 何故……この2人が?
「……」
 宮下は無言でその空いた席につく。
「お疲れさまでーす」
「お疲れッス」
「お疲れ様です」
 3人の声は全く普通だ。
「来年から男も浴衣ですかねぇ」
 その西野の問いかけに、
「さあな……」
 としか返事ができない。
「西野、もう休憩入ってだいぶなるんじゃないか?」
「まだあと10分ありまッす」
「永作さんのは自前?」
 佐藤は香月に尋ねる。
「はい、可愛いですよね。浴衣にレースがついてるなんて。どこかのブランドか、オーダーメイドですよ、きっと」
 香月は普通に応えた。それで少しホッとする。
「矢伊豆副店長のもですよね? 俺、どうせなら白がいいなぁ」
 携帯片手に呟く西野。
「白だと自前?」
 香月は笑う。
「男の会社のは絶対変なやつだよ……ロゴが入ってたりさ」
「いいじゃないか男なんだし」
 佐藤も普通だ。
「そんなん言い出したらおっさんですよ、佐藤さん」
「そうか? 俺は昔からこんな感じだけどなあ」
「まあ、元がいいとそうかもしれませんけどねー」
 適当に返答した西野。
 それは耳に入ってきた音声のせいではない。きっと本音だろう。
 その音を聞いて、西野が「西野休憩出ます」と去る。そしてすぐにまた耳に声が入って、
「はい」
 と仕方なさそうに佐藤が席を立った。仕方なさそうだったのは、きっと見間違いではない。
 2人きりになると宮下はすぐに香月に話しかけた。
「佐藤さん、どうもないか?」
< 151 / 314 >

この作品をシェア

pagetop