絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
さて、その日の帰り。従業員の大半が浴衣のまま飲みに出る中、香月は1人歩いて家路についていた。皆と一緒に飲みに出るという選択肢もあったのだが、慣れない浴衣の疲れが出たのか、なるべく早く帰宅したかった。早く寝たい。しかも、明日は朝一番の出勤になっている。
自転車で5分の道のりも、歩けば遠い。それでも、重い足を引きずりながらも近道を選んで前に進んでいた。もうすぐそこに東京マンションの門が見えている。
「!?」
一本通行の道で、突然街灯下の灯りに左手が見えたので、驚いて立ち止まった。男が1人立っている。が、明かりで少し逆光になっており、顔はまったく見えない。
男は左手を水平に出すと通せんぼをしているようで、怖くて浴衣の裾を握りしめた。
「あの、道を尋ねたいんですが……」
Tシャツにジーパンにキャップ帽。まだ若い感じがする。
「あ、はい……」
どう考えても普通ではない。
「ここなんですけどね……」
男は暗いながらにも大判の地図を取り出すと、こちらに向かって歩き始めた。指で位置を確認している。振り切る勇気もなかった香月は仕方なく、話を聞くことにした。
「ええーっと……」
男は場所を探しているようなので、次に話しかけてくるのを待っていようと何気なく空を見上げた瞬間、ものすごい力で右腕を引っ張られた。
「え……」
咄嗟で声が出ない。体は男に引っ張られるままで、足から下駄がすぐに脱げた。
「来い!!」
気付かなかったが道路の反対側に黒い車が停められていた。そこに引きずり込むつもりなのである。
「い……」
嫌、が声に出ない。
とにかく右腕を強く摑まれ、引かれるがまま。
浴衣も邪魔をして手足に力が入らず、きんちゃくも手から離れ、抵抗することもできない。
車のドアが思い切り開かれ、更に摑まれた腕に力が込められたその時。
突然、眩しい光が2人の背後から当たり、同時に男の動きが停止した。
更に強く光が差し、男は腕を突然手を放す。
香月は支えを失ってその場に倒れた。
「チッ」
舌打ちのような声が聞こえた。
自転車で5分の道のりも、歩けば遠い。それでも、重い足を引きずりながらも近道を選んで前に進んでいた。もうすぐそこに東京マンションの門が見えている。
「!?」
一本通行の道で、突然街灯下の灯りに左手が見えたので、驚いて立ち止まった。男が1人立っている。が、明かりで少し逆光になっており、顔はまったく見えない。
男は左手を水平に出すと通せんぼをしているようで、怖くて浴衣の裾を握りしめた。
「あの、道を尋ねたいんですが……」
Tシャツにジーパンにキャップ帽。まだ若い感じがする。
「あ、はい……」
どう考えても普通ではない。
「ここなんですけどね……」
男は暗いながらにも大判の地図を取り出すと、こちらに向かって歩き始めた。指で位置を確認している。振り切る勇気もなかった香月は仕方なく、話を聞くことにした。
「ええーっと……」
男は場所を探しているようなので、次に話しかけてくるのを待っていようと何気なく空を見上げた瞬間、ものすごい力で右腕を引っ張られた。
「え……」
咄嗟で声が出ない。体は男に引っ張られるままで、足から下駄がすぐに脱げた。
「来い!!」
気付かなかったが道路の反対側に黒い車が停められていた。そこに引きずり込むつもりなのである。
「い……」
嫌、が声に出ない。
とにかく右腕を強く摑まれ、引かれるがまま。
浴衣も邪魔をして手足に力が入らず、きんちゃくも手から離れ、抵抗することもできない。
車のドアが思い切り開かれ、更に摑まれた腕に力が込められたその時。
突然、眩しい光が2人の背後から当たり、同時に男の動きが停止した。
更に強く光が差し、男は腕を突然手を放す。
香月は支えを失ってその場に倒れた。
「チッ」
舌打ちのような声が聞こえた。