絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅰ
車のドアが閉まり、続いてエンジン音が聞こえる。
光の正体は丁度角を曲がってきた車だった。車はすぐに停車し、運転席から若い男が出てきたが、その間に地図の男はさっと走り去った。
状況を飲み込むことができず、呆然と浴衣の裾も気にせず座り込んでいる香月に、若い男は近寄り始める。
「どうしま……あ……」
その男は、まず香水の匂いがした。スニーカー、ジーパン。
「どうした? 大丈夫?」
男はこちらに気づくと、喋り方が少し変わった。
「あ……」
知り合い? とまず顔を確かめてみる。
「久しぶり。ビックリしたよ。怪我はない? 何さっきの男。彼氏かなんか?」
「え、あ、いや……」
誰だろう……?
「……」
「何? もしかして、俺のこと忘れた?」
「いえ……」
忘れていたというか、多分知り合ったのは今だろう。そうだ。確か、初めて会ったのはあの時。初めてレイジと自転車で買い物に行った時、黒塗りの車で彼を飲みに誘っていた男だったように思う。
しかし、よくあれだけで人の顔を覚えいたものだ。何の仕事をしているのだろう。
「どうする? 今の知った奴?」
言いながら転げたきんちゃくを拾い、手渡してくれる。
「え、いえ、いや……でも暗かったからそんなに顔が見えなかったけど……」
「彼氏とかではない?」
「違います」
「今だって拉致られかけてたよな?」
「た……ぶん……」
そう言われて初めて意識する。そう、まさに今、地図を出しながら道を教えてくれと迷ったふりをしながら、こちらに近づき、車の中に引っ張りこもうとした……。
「警察行った方がいいよ。ほら、立てる?」
「あ、すみません……」
差し出された手にすんなり摑まった。
「いや、呼んだ方がいいのかな?」
「いえ……私もう今日は疲れてて……早く家に帰りたいです」
「あそう……じゃあ、まあ帰る? って家どこ?」
一瞬迷ったが、
「そこです。すぐそこ」
「東京マンション? あそっか一緒に住んでるって言ってたね」
彼は軽く笑った。
光の正体は丁度角を曲がってきた車だった。車はすぐに停車し、運転席から若い男が出てきたが、その間に地図の男はさっと走り去った。
状況を飲み込むことができず、呆然と浴衣の裾も気にせず座り込んでいる香月に、若い男は近寄り始める。
「どうしま……あ……」
その男は、まず香水の匂いがした。スニーカー、ジーパン。
「どうした? 大丈夫?」
男はこちらに気づくと、喋り方が少し変わった。
「あ……」
知り合い? とまず顔を確かめてみる。
「久しぶり。ビックリしたよ。怪我はない? 何さっきの男。彼氏かなんか?」
「え、あ、いや……」
誰だろう……?
「……」
「何? もしかして、俺のこと忘れた?」
「いえ……」
忘れていたというか、多分知り合ったのは今だろう。そうだ。確か、初めて会ったのはあの時。初めてレイジと自転車で買い物に行った時、黒塗りの車で彼を飲みに誘っていた男だったように思う。
しかし、よくあれだけで人の顔を覚えいたものだ。何の仕事をしているのだろう。
「どうする? 今の知った奴?」
言いながら転げたきんちゃくを拾い、手渡してくれる。
「え、いえ、いや……でも暗かったからそんなに顔が見えなかったけど……」
「彼氏とかではない?」
「違います」
「今だって拉致られかけてたよな?」
「た……ぶん……」
そう言われて初めて意識する。そう、まさに今、地図を出しながら道を教えてくれと迷ったふりをしながら、こちらに近づき、車の中に引っ張りこもうとした……。
「警察行った方がいいよ。ほら、立てる?」
「あ、すみません……」
差し出された手にすんなり摑まった。
「いや、呼んだ方がいいのかな?」
「いえ……私もう今日は疲れてて……早く家に帰りたいです」
「あそう……じゃあ、まあ帰る? って家どこ?」
一瞬迷ったが、
「そこです。すぐそこ」
「東京マンション? あそっか一緒に住んでるって言ってたね」
彼は軽く笑った。